お話を聞いたのは……品川区商店街連合会 会長 綱島信一(のぶかず)さん
1949年、大崎駅前にあった大衆食堂の長男として誕生。大学卒業後、家業に入り、飲食店経営の傍ら、大崎発展のために奮闘し続けてきた。
街づくりの超エキスパート。
「たくあんで日本を変えたい」
「お先真っ暗と言われ続けた大崎を盛り上げたい!」その一心で40年も前から大崎周辺の街づくりに汗をかいている人がいる。綱島信一さんだ。
再開発が進むなか、「街づくりがビル造りで終わらないように」と、人と人がつながるイベントを手がけてきた。改札から伸びる東西自由通路「夢さん橋ビューロード」の名は、実は、30年以上続くイベント名が採用されていて、なんと、綱島さんが名付け親なのだ。そんな大崎のレジェンドの脳裏に、ある時、壮大な企画が浮かんだ。
「たくあんで日本を変えたい」
なじみある黄色い漬物に日本の叡智(えいち)が宿る!
たくあんは品川区にゆかりがある漬物だ。逸話の主役は、東海寺(北品川3丁目)の初代僧侶、沢庵宗彭(そうほう)。地位や名誉に関心を寄せず、質素な暮らしを大切にした禅僧で、時の将軍、徳川家光がたいそう信頼を寄せていた。ある日、寺を訪れた家光に、沢庵和尚お手製の漬物を供した。気に入った家光が、「これは何か?」「貯え漬けにございます」と和尚。家光、「名をたくあん漬けとせよ」と、伝えられているとか。
地域と関わりながら、経済効率を優先する社会を危惧していたが、沢庵和尚のたくあんに、街づくりのヒントを見つけたのだ。さらに、和尚が人生の最後に書いた文字、「夢」も心に響いたに違いない
「注目したのは、地方のおばあちゃんが樽で漬けるたくあん。隣近所の人と協働で、おしゃべりしながら次世代に伝承する手仕事を、都会で暮らす人に伝える。漬物は発酵食品だし、ふぞろいの野菜を使えばフードロスゼロもかなう。現代の感性にフィットするはず」
そんな思いから生まれたのが、「ビルの谷間のたくあん祭〜お新香の逆襲〜」。夢さん橋ビューロードで盛大に開催された。全国各地の昔ながらのたくあんを集め、100円で20種類を食べ放題。好みに投票して人気一位を選出するなど、楽しい内容満載で大成功。2年続けて開催した。
「たくあんを通して、最も大切な心の豊かさを伝えたいのです」
綱島さんの夢は、さらに膨らむ。
これが大崎たくあん祭だ!
取材・文=松井一恵 (teamまめ) 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2022年7月号より