雑居ビルの地下にある都会の隠れ家
東京メトロ新宿御苑前駅から地上に出ると目の前の新宿通り。ここは江戸時代、江戸~甲州を結んだ旧甲州街道で、現在の新宿1丁目から3丁目の辺りは内藤新宿と呼ばれる宿駅があった場所だ。現在、その面影はほとんど見られず、ビルや飲食店が立ち並ぶ。
本日の目的地、『SCOPP CAFE』は、新宿通り沿いのビルの地下にある。新宿御苑前駅の1番出口、新宿三丁目駅のC1出口、どちらから行っても徒歩2分ほど。ビルの1階は『甲州屋呉服店』。この通りがかつて甲州街道だったことを気づかせてくれる店名の老舗だ。
呉服屋さんの脇にブルーの看板を見つけて覗きこむが、その先は無機質な雑居ビルの壁。ぱっと見はどこがカフェなのかわからない。でもメニューの黒板も立っているし、ここに間違いない。とにかく入ってみよう。
ビルの廊下を奥に進むと、その先に狭い階段が。階下の突き当りに立てかけられた白いスコップが見える。下りてみよう。
階段をぐるっと下りて鮮やかなターコイズブルーのドアを目の前にすると、すぐそこが新宿の大通りだったことを一瞬で忘れてしまう。自分だけが知っている都会の隠れ家に来たみたい! 扉の中はどんな世界なんだろう? わくわくが止まらない♪
多彩なアレンジで楽しませてくれるオリジナルのラテアート
ドアを開けて中に入ると、やわらかい灯りに包まれる。ゆっくりと時間が流れているように感じる空間だ。テーブル席とソファ席、奥のキッチンの前にはカウンター席もある。北欧テイストのシンプルでおしゃれな雰囲気。
お食事メニューもデザートメニューも充実の『SCOPP CAFE』。今日は自慢のケーキをいただこうと思う。ケーキのラインナップは、ガトーショコラ680円、ピスタチオ風味のティラミス700円、気まぐれチーズケーキ730~円、本日のケーキ700円~。
迷いに迷った末、ピスタチオ風味のティラミスとカフェラテをオーダー。ゆったり座れるソファ席でいただきます。
まずは『SCOPP CAFE』の人気メニュー、カフェラテ。人気の理由は、オリジナルのラテアートだ。スタッフがお客さんの雰囲気や、季節や天候などからイメージして、一杯一杯丁寧に描いてくれる。
テーブルに運ばれたカフェラテを見て思わず「うわぁ~♪」と声を上げてしまった。お腹に“さんたつ”と書かれたくまさんがお散歩してる! めっちゃカワイイ!
グループで行けば一人一人に違うデザインを施してくれるそう。これは行くたびに注文したくなっちゃうやつ!
ピスタチオ風味のティラミスは、まずひと口目でそのふわとろ食感にやられてしまう。そしてしっかり感じるピスタチオの風味とコク。口の中に幸せが溢れる。
けっこうボリュームがあって濃厚な味わいなのだが、甘さ控えめでペロリと食べられてしまう。これは絶品!
『SCOPP CAFE』では16時までオーダーできるランチや、ディナーのメニューも人気だ。この日出迎えてくれた秋山さんは香川県出身。「東京のスーパーにはいつも同じ野菜が並んでいるのが不思議」と話す秋山さん。「ハウスものもあるし、年中採れる野菜もあるかもしれないけど、食材本来のおいしさを大切にしたいです。この野菜の一番おいしい時期知ってる? って。見た目だけの野菜とかは使わない」。
店で使う野菜などは、実家に帰ったときに地元の農家で買い付けたり、東京でもJAに買い出しに行って、今の時期しか食べられない物を選んでいるそう。旬の食材は日替わりメニューで使われることが多いとのこと。要チェックだ。
窓のない地下の空間で景色をつくるのはスタッフとお客さん
2011年にオープンした『SCOPP CAFE』。場所を新宿に決めた理由について秋山さんに聞いた。「新宿には映画館もあるし買い物する場所もたくさんある。カフェってそのためだけに行くような場所ではないと思っていて、買い物して歩いている途中にカフェがあったから入ろうか、て。カフェって、“ついで”でいいんですよ」と秋山さん。今でこそ新宿エリアにはおしゃれなカフェがたくさんあるけど、2010年ごろは渋谷や原宿に比べてカフェが非常に少なかったんだそう。
この場所を見つけた当初は、古いビルの地下ということで周りにはかなり反対されたんだとか。「階段があるだけで、下は土だった。でもここがいいな、と思っちゃったんで、お金もそんなにかけられないから床を張るところから手作りで」。なるほど、それで“SCOPP”なんですね、と聞くと、「そういうわけではない」とのこと。
「店名の由来は特になくて。思いつきというか、響きで決めました」と秋山さん。「意味のある名前にすると、思い入れが強くなっちゃう気がして。お客さんがそれぞれ想像してくれればいい」。スコップでこの場所を掘ったんだな、という筆者の勝手な想像も店名の由来の1つということにしてもらおう。
家具のこだわりを伺うと「全部バラバラのものを並べたかった。壊れたら買い足して、直せるものは自分たちで直して今まで使っています。アンティークもあれば新品を買ってきたものもあるんですが、いろんな人が座るからお店で使ってるうちに、それぞれいい感じになってきました」と秋山さんは笑う。
床から自分の手で作り上げたということは、理想のお店ができたということですね、と聞くと、「理想とか、あんまりこだわりは強くないんです」と秋山さん。「人がいて、初めて完成する場所だから、あんまり色を付けたくないんです。なにかあれば一緒に働くスタッフに『どう?』って聞くようにして。みんなで作ってる感じを大事にしてます」。
店の壁はギャラリーとして貸し出している。「窓がないから景色が変わらないんです。スタッフだけで色が付いちゃうより、いろんな人が景色を変えてくれれば」と秋山さんは話す。
「店内で毎日違う色や景色を見せてくれるのはお客さん」と秋山さんは言う。おいしいケーキとおいしいランチをいただきながら、自分も『SCOPP CAFE』に色を付ける1人になれるといいな、と思う。
取材・文・撮影=丸山美紀(アート・サプライ)