日本のコーヒー文化の礎を作った、歴史あるカフェ
地下鉄銀座駅から新橋方面に徒歩約5分。銀座の大通りをブラブラ散歩していると、おしゃれなカフェが目に入る。そのモダンな店構えからは想像できないが、実はここ『カフェーパウリスタ』は、1911(明治44)年に開店した老舗中の老舗である。当時の店舗は関東大震災で失われてしまったが、1970(昭和45)年に創業の地・銀座に再建された。
店内は、落ち着いた照明の1階席と、窓から差し込む光が爽やかな2階席に分かれており、どちらもゆったりと長居したくなる居心地の良さだ。老舗喫茶店と聞くと昔懐かしい雰囲気を想像するが、『カフェーパウリスタ』はレトロを超越して、かえって現代にも通じる洗練された雰囲気を纏っている。
『カフェーパウリスタ』を創業したのは、ブラジル移民の父とも言われた水野 龍氏。ブラジルサンパウロ州政庁の支援を受け、日本にコーヒーやカフェ文化を広めるために作られた店だったという。創業当時は、コーヒー1杯5銭。そば1杯3銭の時代と考えれば高いようにも思えるが、豪華なカフェーの雰囲気の中で、当時珍しかったコーヒーやドーナツを楽しめるとあって大盛況となり、多くの文化人に愛されたことでも知られている。
『カフェーパウリスタ』現代の定番、キッシュとコーヒー
『カフェーパウリスタ』の食事メニューの中でも、特に人気なのがこちらのキッシュ ロレーヌ。単品で620円だが、コーヒーとセットにすると1160円で、コーヒーはおかわり1杯無料だ。
キッシュは、サクっと軽い食感のパイ生地に卵生地とベーコンやほうれん草がたっぷり入って、上品な味わい。
セットのコーヒーは3種類から選べるが、今回は森のコーヒーをセレクト。熱帯雨林を伐採して栽培する一般的なコーヒーと違い、森の生態系を残しながら無農薬・化学肥料不使用で栽培されているというこのコーヒー。飲んでみると、すとんと滑らかに喉に落ちてくるような優しい味わいだ。酸味控えめで、コーヒーの甘みや旨味をじっくり楽しめる。
一度は食べたい、『カフェーパウリスタ』のホームメイドケーキ
食事の後は、やっぱりスイーツも外せない。入り口のショーケースに並ぶのは、どれも長年愛され続ける手作りケーキ。ザッハにオペラ、モンブランなどの定番のほか、フルーツなどを使った季節のケーキもあって、目移りしてしまう。
今回は定番ケーキの中から、ふっくら大きな国産栗の乗ったモンブラン800円をチョイス。滑らかなマロンクリームも上に乗った栗も、甘さと洋酒がしつこくなくて、栗の味がしっかり感じられる。中に隠れたコーヒークリームがほんのり香るのも特徴的で、このケーキを食べるためだけにまた来たい!と思える美味しさだ。
この日は暑かったので、冷たいカフェトニック850円を一緒に頼んでみたのだが、これがまた大人の味で美味。レモンピールとコーヒー、トニックウォーターの香りと酸味、苦みが爽やかで、普通のアイスコーヒーに飽きてしまった人にぴったりだ。
コーヒーの旨さをギュッと閉じ込めた、森のコーヒーゼリー
食後にケーキはちょっと重たいかな、という人には、こちらの森のコーヒーゼリー850円がおすすめだ。お店でドリップした深煎りの森のコーヒーを使い、甘さを一切加えないでゼリーにしており、ガムシロップやクリームで自分好みの甘さに調節できる。
甘味を加えていないので、コーヒーの香りとコクが口いっぱいに広がるのに、後味はすっきり。クリームはホイップされているので、一口ごとに好きなバランスで食べられるのも魅力。コーヒー好きにはたまらないデザートだ。
レジ前にずらりと並んだコーヒー豆をお土産に選んでいると、一緒に飾られた明治時代の広告に改めてこの店の歴史を感じる。かつては一部の人しか飲めない高級品であり、香りも味も日本人に馴染まないものだったというコーヒーが、今では日本の日常生活に深く根付いていることに感慨を覚えながら、令和の銀座をブラブラと帰路についた。
取材・文=岡村朱万里 撮影=高野尚人