30年前から愛されてきた老舗カフェの元祖フレンチトースト
オーナー山本眞輔さんは、ここ新宿が地元。戦前から祖父が飲食店を営んでいたが、父の代に替わった1960年には店をビルに建替え飲食店を辞めていた。
「私が20代後半の頃、飲食店をやりたいと思ってカフェをオープンしました」と山本さん。1990年から3年ほど別の名前で営業していたが、1993年に店名を『cafe AALIYA』に変えた。「AALIYAというパキスタン人の知人がいて、ゴロがいいからとその名前をもらったんです」。
ちょうど喫茶店ブームの終わり頃で、新宿東口エリアには40軒ほどの喫茶店がひしめき合っていた。喫茶店のメニューといえばホットケーキが定番の時代。他店とは違うものを……と思いついたのがフレンチトーストだった。
「当時使っていたパンがすごくおいしくて、これを使ったらおいしいフレンチトーストができるんじゃないかと」。そうしてフレンチトーストをメニューに据えた。
今でこそ専門店ができるほど人気のフレンチトーストだが、当初は他に提供する店はほとんどなかったという。その後、2003年に日本初のフレンチトースト専門店が江の島にオープンし、2012年にNYの人気カフェが初上陸した頃からフレンチトーストブームが巻き起こる。時代に先駆けて作り続けてきたこの店が、フレンチトーストの元祖と呼ばれる所以である。
銅板で焼くこだわりのフレンチトーストは、外はこんがり中はふわとろ
名物のフレンチトーストは、30年前に山本さんが作り上げたレシピを元に、その時々でよい素材を使い、よりおいしい味へとブラッシュアップしてきた。一番大切なパン選びも、最初のパンから数えること5代目くらいという。
「材料は常にいいもの、おいしいものがあれば変えてます。パンも値上がりしてますが、材料を安くして質を落とすということは一度もしてないですね。今までで一番良い状態が、今だって言えるように維持しています」。
日々おいしさを追求し続けながらも、銅板でじっくり焼き上げるスタイルは昔から変わらない。
熱の伝導率のよい銅板で素早く焼くことで、分厚いパンの中までしっとりふっくら、そして外はほどよくこんがりと仕上がる。
今回注文したのは、フレンチトースト3枚にソースが3種類のフレンチトーストミックス950円。3種類のソースはアップルシナモン、生クリームキャラメル、ブルーベリーアイス。トースト2枚にソース1種類のセットもあるが、手作りのソースはバラエティ豊富でどれにしようか迷ったらこちらがおすすめ。
ふわふわのフレンチトーストは口の中でとろけ、まるでプリンを食べているよう。ソースもおいしいが、何もつけずにそのまま食べてみてほしい。アパレイユがしみこんでとろとろふわふわだが、パンの芯が少し白く残っているのに気づくだろう。選び抜かれたパンの素材そのものの味、コシのあるしっかりとした食感が伝わってくる。
それぞれのソースをつけるたびに味の変化も楽しめる。甘くクリーミーなソースから酸味のきいたソースと交互に食べ進めるうちに、あっという間に完食。メニューではシェアをおすすめするほどのボリュームだが、フレンチトースト好きなら余裕だろう。お腹のすき具合や人数に合わせて頼んでみて。
サイフォンで淹れるコーヒーが、フレンチトーストをより味わい深く
フレンチトーストのお供におすすめは、サイフォンで淹れる1杯のコーヒー。「サイフォンで抽出することで安定してクリアな味が出るんです」と山本さん。
直火式焙煎したコーヒー豆を提供ごとにグラインダーで挽き、サイフォンでコポコポと音を立てコーヒーがゆっくり抽出されていく。カウンター席に座ると、ベテランスタッフが1杯ずつ丁寧に淹れていく様子をじっくり眺めることができる。
フレンチトーストを1切れ、そしてコーヒーをひと口。コーヒーの爽やかな酸味とほろ苦さが、フレンチトーストの甘さに寄り添い、オススメ通りぴったりのペアリングだ。
2021年 4月6日には、同じビルの2階に2号店をオープンした。「行列を敬遠して足が遠のいている常連様のためと、もう1つはこの店では厨房のスペース的に難しかった、食事系のフレンチトーストを提供したかったからです。コーヒーもさらにグレードの高いものを用意したり、店内席もスペースをとって、年齢層の高い方も落ち着いて過ごせるようにしています」と山本さん。時間がない時は2号店へというのもありだし、今日はデザート系、次は食事系という選択肢も増えて、通う側にとってもうれしい展開だ。
「そもそも飲食店を始めようと思ったきっかけが、お客様においしいと喜んでもらえるのがうれしいから。そこの部分は今も昔も変わってません。クオリティを下げずに、少しずつでもおいしいと言って喜んでくださる方が増やせたらと思ってます」。
お客様の喜ぶ顔がモチベーションという山本さん。お客様ファーストが居心地のよい店、おいしい味となり、そしてまた一人ファンが増えていく。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代