景勝地に立つ『星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル』

『星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル』があるのは、青森県は十和田市。その名の通り、奥入瀬渓流のそばに立つリゾートホテルで、この渓流沿いにあるホテルはここだけだ。

「オイラセってどこやねん」という方のために復習しよう。八甲田山のちょい南、青森県と秋田県にまたがるのが十和田湖。その東岸から東北方面に流れ出ているのが奥入瀬川で、奥入瀬渓流はその上流部を指す。八甲田山や八幡平、岩手山なども含まれる十和田八幡平国立公園の一部で、そのなかでも特別保護地区に属し、さらには国指定の天然記念物かつ特別名勝、ミシュラン・グリーンガイド東北二つ星……とにかく、青森県を代表する景勝地である。

その奥入瀬渓流をゆったりたっぷり味わう「渓流スローライフ」をコンセプトに掲げているのが『星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル』。つまり、奥入瀬渓流を満喫したいなら、ここに泊まるっきゃないってわけよ。

5月某日、新緑の美しい日にお伺いしました。
5月某日、新緑の美しい日にお伺いしました。

「要するに、渓流沿いのホテルでのんびりするのね」と思ったそこのキミ! 星野リゾートを舐めすぎです。ここはただのリゾートホテルにあらず、奥入瀬渓流の魅力を全身で感じるべく用意された設えやアクティビティがすごいのだ。

まずはホテルに入って早速びっくり。広々したフロントの奥に、何やら壮大な世界観のスペースが広がっている。

渓流の鳥やきのこが共生している様子が表現されている。
渓流の鳥やきのこが共生している様子が表現されている。

ここは「ロビー 森の神話」。中央にそびえるのは暖炉で、なんだか見覚えがあると思ったら岡本太郎氏の作品なのだそう! 背後の大きな窓一面に写る森の緑がよく映える。

ちなみにフロントがあるのは東館で、西館の「ラウンジ 河神」も同じく岡本太郎氏の作品。
ちなみにフロントがあるのは東館で、西館の「ラウンジ 河神」も同じく岡本太郎氏の作品。

お部屋はぜひとも「渓流ツイン 半露天風呂付」で。「渓流露天風呂」もあってそこでも渓流は望めるけれど、部屋のお風呂はやっぱり格別。

窓の外を覗くと渓流が見える。
窓の外を覗くと渓流が見える。
せせらぎに耳を傾けながら全身ふやけるまで浸かりたい……。
せせらぎに耳を傾けながら全身ふやけるまで浸かりたい……。

森へ誘う、充実のアクティビティ

奥入瀬渓流入門としてぜひとも参加していただきたいのは、「渓流オープンバスツアー」。ホテル前から2階建てのオープントップバスに乗り込み、渓流沿いをドライブ、十和田湖まで行って帰って来るという1時間半程度のツアーだ。

いわば“森のはとバス”! ひとり2500円(時期により変動あり)。
いわば“森のはとバス”! ひとり2500円(時期により変動あり)。

たかがバスツアーと侮るなかれ、風を感じながら森の中を走るのは想像以上の心地よさ! これは徒歩じゃ味わえない楽しさだろう。

ここは天国かな……?
ここは天国かな……?

ガイドさんによる渓流の成り立ちや見どころの解説を聞きながら、くねくねと森の中を進むバス。滝や岩壁などのポイントに近づくと徐行してくれて、思わず子供みたいに首を伸ばしたり目を凝らしたりしてしまう。

流れは車道のすぐ脇!
流れは車道のすぐ脇!
大小さまざまな滝が次々に現れる。これは「雲井の滝」。
大小さまざまな滝が次々に現れる。これは「雲井の滝」。

せっかく奥入瀬に来たからには実際に歩きたい、その地を踏みしめてみたい……と思うなら(思うはず)、遊歩道の散策をおすすめしたい。渓流の脇には遊歩道が整備されていて、上流に向かって歩いても傾斜はほとんど感じられず、快適に歩ける。ホテルと渓流の中流あたりを結ぶ無料のシャトルバスもあって予約なしで乗れるから、行きはバスで帰りは歩き、とかもできちゃうのだ。

さらに、せっかく奥入瀬を歩くからにはガイドがほしい、いろいろ解説が聞きたい……と思うなら(思うはず)、「国立公園プライベートツアー」を予約すべし。こちらは、1組4名22,000円、1日1組限定でネイチャーガイドが案内してくれるという最高にぜいたくなツアーだ。

筆者がプライベートツアーを体験した日のお天気は雨。ちょっぴりがっかりしながら長靴とカッパをレンタルして準備しているところへ、妙にワクワク顔のガイドさんがやって来た。何かと思えば、「今日は雨だから、苔たちが活き活きとしていて最高ですよ」と言う。

晴れているときとは一味違う趣きあり。
晴れているときとは一味違う趣きあり。

「苔すか……」と、案内されるまま渓流の脇を歩き出すと、早速ガイドさんが苔むした大木を指さした。どれどれ、とルーペで苔を見てみると……。

苔って、こんな形だったの!?
苔って、こんな形だったの!?

「奥入瀬渓流には約300種類もの苔が生息しているんです。ほら、ここには苔の胞子体がありますね。先っぽの蒴(さく)に胞子が入っていて、風に乗って飛んでいくんです」

苔のなかからぴょんぴょんと飛び出す胞子体。か、かわいい!
苔のなかからぴょんぴょんと飛び出す胞子体。か、かわいい!

次々と“苔スポット”を見つけては教えてくれるガイドさん。こっちもどんどん楽しくなっちゃって、あちこち覗いたり触ったり、見慣れない苔があると「これ何ですか!?」と聞きまくってしまう。

これも苔。「う、うわあ」となる、蛇の鱗みたいな模様が特徴のジャゴケ。
これも苔。「う、うわあ」となる、蛇の鱗みたいな模様が特徴のジャゴケ。

しかしよくよく考えると、こんな山奥の渓流の脇を快適に歩けるのはなんだか不思議だ。普通、渓流の傍ったら急坂で、よじ登ったりずり落ちたり、とてもじゃないが優雅に散策というイメージからは程遠い……。

その理由には、奥入瀬渓流の成り立ちが関係している。十和田湖は火山活動によってできたカルデラ湖なのだけど、それがおよそ1万5千年前に決壊してできたのがこの渓流。川が侵食してできる谷がV字状になるのに対して、奥入瀬渓流は底の広いU字状。だから、車道も遊歩道も渓流とほぼ同じ高さにあり、この景観を形成しているというわけなのだ。

「こんなにアクセスがいいのに、豊かな天然林が広がっていて大木も多い。こんな場所なかなかないんですよ」

水滴にも見とれちゃう。
水滴にも見とれちゃう。

プライベートツアーは約3時間半。雨でも、いや、雨だからこそ大満足の散歩。雨って、水って、恵みなんだなあ……とじみじみ感じたのははじめてだ。

渓流と青森を直に味わうディナーと朝食

外を歩けば腹が減る。となれば、気になるのが食事だが、こちらも舐めてもらっちゃ困るぜ。

今回夕食をいただいたのは、館内のフレンチレストラン「Sonore(ソノール)」の、春の味覚を堪能するフルコースだ。

まずはテラスで、食前酒とアミューズ。
まずはテラスで、食前酒とアミューズ。
「渓流テラス」。その名の通り、渓流が目の前!
「渓流テラス」。その名の通り、渓流が目の前!
レストランの内装も、渓流の岩壁や周辺の森をイメージしたもの。
レストランの内装も、渓流の岩壁や周辺の森をイメージしたもの。

青森で親しまれている食材を使った料理と、それぞれに合わせたワインペアリング。海の幸も山の幸もふんだんで、斬新さと親しみやすさのバランスも申し分なし。

青森の郷土料理「イガメンチ」をフランス料理にアレンジ。まさか、と思って口に運ぶと、本当においしいイガメンチ!
青森の郷土料理「イガメンチ」をフランス料理にアレンジ。まさか、と思って口に運ぶと、本当においしいイガメンチ!
冷前菜「鮪 春キャベツ」には、旨味の強いピノ・ノワール。
冷前菜「鮪 春キャベツ」には、旨味の強いピノ・ノワール。
メインディッシュの肉料理「牛 アスパラガス」には、シャトー・ラ・トゥール・デ・モン。
メインディッシュの肉料理「牛 アスパラガス」には、シャトー・ラ・トゥール・デ・モン。
イチゴの酸味と濃厚なピスタチオがたまらんデザート。
イチゴの酸味と濃厚なピスタチオがたまらんデザート。

時期によって提供内容や食材の産地が異なる場合はあるそうだけど、それは旬の食材を一番おいしい食べ方で味わうため。予想を超え、期待をも超えるディナーになるはずだ。

 

ちなみに、5~10月限定で「渓流テラス」朝食をいただくこともできる。朝の渓流がこれまた清々しくて心地よく、ボックスに入って提供される料理もピクニックみたいで楽しい。

ポットの中身は熱々のスープでした。
ポットの中身は熱々のスープでした。

雨の日が楽しみになる、そんな旅先があってもいい

本記事の冒頭で「雨でも楽しい散歩というのもある」と書いたけれど、訂正しよう。「雨だからこそ楽しい散歩というものもある」。旅行も山歩きも晴れてるに越したこたあないと思っていたけれど、『星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル』滞在を経てすっかり思い直した。次に行くときは、雨ならうれしい、晴れてもうれしい、なんて最高じゃないか!

ちなみに、詳しく紹介しなかったけれど、ホテルの「こけ玉作り体験」でシダのこけ玉をつくった。東京の自宅に持ち帰り、毎日いそいそと霧吹きで水をやりながらペットの如く愛でていることは、ここだけの秘密にしてください。

住所:青森県十和田市大字奥瀬字栃久保231/アクセス:JR八戸駅・青森駅から車で約90分(無料送迎バスあり・要予約)

取材・文・撮影=中村こより(編集部)