四軒長屋を改装した趣たっぷりのカフェ

浅草寺の裏手、観音裏と呼ばれるエリアは浅草のメジャーな風景とはまた違ったノスタルジックな街並みが続く。路地が交差し、お店と住居が混在するなかの四軒長屋の一画で『Cafe 晴蔵』は暖簾(のれん)を掲げている。この長屋はかつて芸者さんの住まいだったという。

古めかしい建物にひときわ鮮やかなブルーの看板が目印。
古めかしい建物にひときわ鮮やかなブルーの看板が目印。
ガラスの引き戸を開けると階段を昇るよう促される。
ガラスの引き戸を開けると階段を昇るよう促される。

築50年超という建物は古いけれども掃除が行き届いていて、嫌な感じはない。階段の先にはどこか懐かしさを感じる空間が現れた。

まるで昔からの友人の部屋のような親しみやすさのある店内。
まるで昔からの友人の部屋のような親しみやすさのある店内。
座る場所によっていろいろな表情を見せる。
座る場所によっていろいろな表情を見せる。

カリカリ食感がたまらない!浅草フレンチトースト

人気No.1という浅草フレンチトーストを注文。「バゲットをフライパンとオーブンで2度焼いています」と、店主の天笠さん。食べてみるとカリッといい音。そして舌にはふわりと品のよい甘さが広がる。

浅草フレンチトースト900円とサイフォンで淹れるコーヒー600円。セットで頼むと100円引きに。
浅草フレンチトースト900円とサイフォンで淹れるコーヒー600円。セットで頼むと100円引きに。

浅草フレンチトーストは千束の『セキネベーカリー』のバゲットを使っている。プレートに添えてある少し塩気のある餡子は『Cafe 晴蔵』と同じく観音裏エリアにあるたい焼のお店『写楽』から、シャリシャリと冷たく甘いあんずは西浅草の老舗あんず商店『港常(みなつね)』から。まさに浅草づくし!

そして店主の天笠さんも浅草生まれ、浅草育ち。「落ち込んでいたときに友人がふるまってくれたフレンチトーストを自分好みにアレンジしました」。
そして店主の天笠さんも浅草生まれ、浅草育ち。「落ち込んでいたときに友人がふるまってくれたフレンチトーストを自分好みにアレンジしました」。

味のこだわりは「食べ終わったときにちょうどいいこと」だそう。なるほど、フレンチトーストは重たすぎず、なんだかすっかり元気になる。

ストレスもモヤモヤもいつのまにか晴れていく

モーニング600円はプラス150円でバタートーストからカレーチーズのトースト、あんバタなどに変更可能。
モーニング600円はプラス150円でバタートーストからカレーチーズのトースト、あんバタなどに変更可能。

店主・天笠さんはもともと飲食とは違う道を歩んでいた。親の跡を継ぎ、上場企業の経営者として社長業をこなすも「大きな会社だったのでいろいろあったので疲れてしまって」辞めたそうだ。

社長の座を辞したことに後悔はないと言う。しかし、どうしても直後はぐるぐると思い悩み、頭と心を整理する時間がしばらく必要だったという。最終的には地位や財産よりも、やりたいことをやろう、自分らしくいられることをやろうと決意。天笠さんは子どもの頃から憧れていた飲食の世界へ飛び込んだ。

晴蔵ソーダ600円。
晴蔵ソーダ600円。

「自由に改装していいという条件だったので、この長屋に決めました。畳をはがして板張りにして、壁を塗り替えて、仕切りを壊して、天井を抜いて……とやっていったら、自分の中で溜まっていたものがどんどんそぎ落とされていきましたね」。

物腰柔らかく、ときにユーモアを交えて話をしてくれる天笠さんは丁寧に心のこもった接客をする。「ここに来てくださるお客さんは気づかい屋さんで、なんだか控えめな方ばかり」とのことだが、きっと天笠さんのやさしい波長と合うのだろう。

モーニングにスープが付くのは「体を温めてほしい」という思いから。
モーニングにスープが付くのは「体を温めてほしい」という思いから。

生きていれば雨の日も風の日もある。『Cafe 晴蔵』でひと休みすれば、きっとまた歩き出せるのだ。

住所:東京都台東区浅草3-34-2/営業時間:モーニング7:00~10:30、レギュラーメニュー10:00~16:00(LO 15:30)/定休日:木/アクセス:地下鉄浅草駅から徒歩12分、つくばエクスプレス浅草駅から徒歩8分

構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子