先代が築いた老舗洋食屋を味もそのまま2代目が守る
2代目店主の青木真太郎さんが継ぐ『キッチンアオキ』は、先代の父・秀雄さんが25歳で始めた店。
「ここで店を開くためにどこかで修業するにしても時間がかかるし、人に使われるのが嫌だからと、ホテルのレストランに行って『給料いらないから働きながらいろいろ教えてくれ』と言ったそうです(笑)」と真太郎さんが破天荒な父を語る。そこで1年ほど働き、洋食の技術をいろいろ吸収した秀雄さんが1966年に洋食屋を開業した。
子供の頃から料理好きだった真太郎さんは、大学卒業後に飲食業界へ入り、修業すること4、5年。26歳の時に「母が体力的に厳しいということで、2003年から店に入りました」。2018年に代替わりしたあと、一緒に厨房に立っていた父も2021年に引退した。
今では奥様のさちさんも一緒に、叔母の美枝さん、真太郎さんの3人で店を切り盛りする。「妻は大学を卒業して入った会社の同期で、自分はイタリアンやスパゲティ中心のレストランで働いていて、妻はカフェで働いてたんです」と真太郎さん。カフェ経験の長いさちさんが、接客と仕込みの手伝いで夫を支える。
サクッと食べやすいフライは作りたて揚げたてにこだわる
揚げ物を中心に、白板いっぱいに書かれたメニューがずらり。初めて訪れたら、どれを注文したらよいか悩むだろう。「父の代からこのメニューで、ほとんど変えてない」という豊富なメニューからおススメを聞いてみると「日替りランチ」。
早速、注文した日替りランチの調理を覗いてみると、メンチカツのタネが冷蔵庫からドーンと登場。「注文毎に作りたて、揚げたてでお出しします」と真太郎さん。
卵液、小麦粉、パン粉をつけて揚げていく。このパン粉がおいしさの秘訣。「先代の頃から同じパン粉を使っていて、2度ほど変えたことがあったんですが、やはりこのパン粉じゃないとしっくりこなくて。パン粉の主張が強過ぎない、うちのフライを活かすパン粉なんです」。次々と衣をつけて揚げるそばからいい香りが漂う。
父母から受け継ぐ心配りで「食べてよかった」と思える店に
お待ちかねの日替りランチ、この日はメンチカツ・カニポテトコロッケ・海老フライ。ご飯はお茶碗で、みそ汁や冷奴付きと、見た目は和風弁当の趣き。
「うちは洋食屋だけど、カレーの出汁はブイヨンではなくて和風出汁だったり、ご飯もお茶碗で出して、スープじゃなくてみそ汁、付け合わせは冷奴にしたり。普通、揚げ物屋さんだったら週1回くらい食べに来ればいいかなってところを、週3~4ペースで来てくれるお客さんもいるんです。父の時代から自分たちが毎日食べても飽きないものを考えて作ってます」
メンチカツもカニポテトコロッケも、どれもさっぱりした衣で、何個でも食べられるおいしさ。実際、さらにボリュームのある洋食弁当をペロッと食べていく女の人もいるという。
びっくりしたのは、このお値段にして海老フライがかなり大きめ。「普通、同じ値段だったら、これより1まわりか2まわり小さい海老で、衣を分厚くしてる店が多いですね。うちでは薄衣で揚げるので、大きめの海老を使ってます」。
その言葉通り、ぷりっぷりの食感で海老をしっかり食べた! と満足感のある一品。そして衣はサクサクで、ひとかけら衣を箸でつまんで食べると衣だけでもおいしい。さすが、こだわりのパン粉だ。
お米にもこだわりがある。「父母の頃からお米にはこだわっていて、ずっと同じお米屋さんに頼んでます。自分たちが食べてもおいしい! と思えるものじゃないと、特にご飯はだめですね」と真太郎さん。
このメニューの多さで、さらに好みに合わせてアレンジも可能だ。「海老フライが苦手だったらイカフライに変えたり、カニポテトコロッケの代わりにカレールゥやポテトサラダでも大丈夫です。日替り以外でも、牡蠣1個と海老1個でも。親父の頃には、全然メニューにない料理を作ってというお客さんもいましたし(笑)」。
その心配りは真太郎さんにも受け継がれている。お客様が食べないで残していたら、次来られた時「違うのに変えますか」と声をかけるという。「家で食べる時に、それ食べられなかったらこっち食べれば、みたいな感覚です。食べてよかったなって思ってほしいから」。
昔からの常連さんが親子3代で通ったり、転勤や引っ越しで飯田橋を離れた方が久しぶりに寄ったり、お客様が来てくれるだけで元気をもらうという。店を続けてきた父母への感謝も忘れない2代目が「守っていきたい」と語るこの店は、あたたかくやさしい味であふれている。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代