まるで実験室?不思議な空間でお茶の魅力を発信
渋谷の宇田川町に、2017年にオープンした『GEN GEN AN幻』。オープン以来、茶葉ブランドEN TEA(エンティー)の茶葉を使ったドリンクメニューが楽しめる日本茶スタンドとして営んでいたが、2021年にリニューアルオープン。ドリンクはテイクアウトのみで提供し、茶葉や茶器を中心に取り扱う“お茶のセレクトショップ”へと変化を遂げた。
リニューアルと同時に大きく変化した店内は、コンクリート打ちっぱなしの天井やレンガの壁など、無骨ながらもスタイリッシュな空間。EN TEAの代表である丸若裕俊さんと以前から親交のあったデザイナー猿山修さん監修のもと、より五感が研ぎ澄まされ、お茶と向き合える場所へとアップデートした。
店内を眺めていると、フラスコ型のお茶の抽出器や、カウンター奥の壁にびっしりと敷き詰められたカセットテープ、ずらりと並ぶ木箱……など、次々と印象的なアイテムが目に飛び込んでくる。まるでなにかの実験室のようにも見えるし、昔からある小道具屋のようにも見える。渋谷にありながら、都会の喧騒を忘れてしまうほど惹きこまれる空間だ。
本格的な水出し緑茶が30秒で完成。毎日楽しめるティーバッグ緑茶
『GEN GEN AN幻』では、EN TEAで展開する約20種類の茶葉をすべて取り揃えるほか、茶器の老舗とのコラボレーションにより生まれたオリジナルアイテムを販売している。ここに足を運べば、その日からすぐにお茶を楽しめるというわけだ。
EN TEAは、ティーバッグ専門の茶葉ブランド。ボトルに入れて30秒振るだけで、あっという間に本格的な水出し緑茶が完成する。手軽さを売りにしているからこそ、急須で淹れたような味わいを楽しめるようクオリティはとことん追求。ティーバッグの茶葉は水出しで最大限、緑茶の瑞々しさと香りが引き出されるようにブレンドされている。
丸若さんは、あえてティーバッグにこだわった理由を「どんなに良い茶葉を買っても、使う道具や抽出方法によってはおいしさを損なってしまう。それでお茶から離れてしまうのはもったいない。お茶を飲むまでの複雑な要素を省くことで、まずはおいしさを知ってほしいんです。料理で言えば、だしパックのようなものだと思っていただければ」と話す。
水にぽんと入れるだけで完成するティーバッグのお茶は、茶葉を買っても余らせてしまう人や、本格的なお茶を気軽に飲んでみたいという人にぴったりだ。
また、テイクアウトのドリンクメニューでは、店内で抽出した月替わりの水出し緑茶や鉄瓶湯抽出のドリンクメニュー(500円~)が楽しめる。筆者も自然栽培された山椒をブレンドした水出し山椒緑茶を試飲させてもらったが、山椒の爽やかな香りと緑茶の甘みが意外にもマッチしていて、一瞬で虜になってしまった。
EN TEAのティーバッグのお茶も、使う道具や抽出方法によって味わいが変わるそう。店で抽出する、いっそう深みを増したお茶もぜひ試してみてほしい。
お茶をよりおいしく、お茶の時間をより楽しく彩る茶器
店内には、EN TEAの茶葉をさらにおいしく飲むためのアイテムも充実している。明治8年創業の茶筒の老舗『開化堂』が開発した新しい茶筒である茶簡(ちゃかん)は、従来の茶筒の二重構造の一部分を老舗の技術で一重構造にした。
これにより、『開化堂』の茶筒の特徴である密閉性と蓋を開閉する際のなめらかな手ごたえはそのままに、軽くて持ち運びやすい茶簡となった。外出先でもお茶を楽しみたい人にはもってこいのアイテムだ。
石川県を代表する伝統工芸、九谷焼(くたにやき)の窯元『上出長右衛門窯(かみせちょうえもんがま)』とのコラボレーションでは、オリジナルデザインの湯呑みやティーバッグとのセット7700円を販売。成形から上絵付けまでひとつずつ職人の手によって行われた湯呑みは、独特の味わいがある。
絵柄が同じものでも重さや厚み、線の太さなどが微妙に異なるため、実際に目で見てじっくりとお気に入りを見つけたい。
茶葉の「香り」を楽しむアイテムも
さらに店内には、2020年から新たに誕生した香りのブランドMABOROSHIのコーナーがある。店内の一角でふわっと落ち着く香りを漂わせている茶香炉(ちゃこうろ)は、専用の茶葉を皿にのせて下からキャンドルの熱で温めることにより、茶葉を“香り”で楽しむことができるアイテムだ。
香りを楽しめるのは、緑茶や紅茶、い草など5種類の茶葉をブレンドしたオリジナルの茶葉をはじめ、青森ヒバや神代杉(じんだいすぎ)など国産の木のチップや、ホーリーバジルなどのハーブ類を含む6種類の天然素材。100%天然の香りなので、心が芯から解きほぐされていくような安らぎを感じられる。
1種類の香りをじっくりと堪能するのはもちろん、皿に素材を足していくことにより自分で香りをアレンジできるのも面白い。日本人なら誰もがほっとするような香りから、ハーブの爽やかな香りまで多彩にあるので、その日の気分にマッチした香りを作りだせる。
よりカジュアルに香りを楽しめるアイテムとして、フレグランスミストがある。スキンケアブランドのイソップで人気を博すフレグランスアイテムの調香も手掛ける調香師のBarnabe Fillion氏らと協力して生まれた渾身のアイテム。日本の原風景をイメージした香りは、空間にシュッとひと吹きするだけで、しんしんとした苔のある森の中……といった情景が目に浮かんでくる。
そんな日本の原風景に西洋のインスピレーションを掛け合わせた香りはどんなシーンでも使いやすい。たとえば檜の香りは、お風呂の蒸気に吹きかけると檜風呂のようになるし、小さいボトルに入れれば旅先でも香りを楽しめる。自宅用にはもちろん、プレゼント用に購入する人も多いのだとか。
『GEN GEN AN幻』は、お茶に関するさまざまなアイテムを通して、お茶の新たな魅力に気づかせてくれるほか、豊かな生活を見直すきっかけも与えてくれる。
「自分たちが楽しいと思えることをしていきたい」と語る丸若さんと、お茶を愛する人たちとのコラボレーションによって生み出されるさまざまなプロダクトは、心をくすぐるものばかりだ。
自宅での時間が増えた時代、日本人になじみ深い「お茶」と、あらためて向き合ってみるのもいいかもしれない。
取材・文・撮影=稲垣恵美