ひょうきん店主が地元・宮城県気仙沼を、漁港直送の魚と地酒で盛り上げる
2013年8月12日にオープンした居酒屋『炭火家おだづもっこ』。 “おだづもっこ”とは宮城の方言でひょうきん者という意味がある。宮城県気仙沼出身、おだづもっこなオーナー小原木和輝さんが営む店だ。
「看板を見て、宮城の店だとわかって来てくださる方もいますね」と店長の伊藤真人さん。もともとオープンからの常連だったとか。「僕の出身は岩手の陸前高田で、オーナーの地元の宮城の気仙沼と県境で隣町なんです。実家がすごく近かったのも、店に通うようになったきっかけですね」。長い付き合いのオーナーから誘われ、2017年頃からバイトに入り、2021年から店長になった。
2011年3月、オーナーが宮城で会社を立ち上げてすぐ、東日本大震災で会社を継続できなくなった。オーナーはそこからヒッチハイクで旅に出て、日本縦断したという。戻ったとき、地元の人が「おかえり」と温かく迎えてくれたことから、東京で気仙沼を盛り上げようと、地元の特産品を取り入れた居酒屋を始めたそう。
店の中心にドンと構えるコの字カウンターには、人との縁を大事にするオーナーのこだわりが。「お客さんとのコミュニケーションを大事にしていて、こだわりのコの字カウンターなんです。ただ、焼き鳥を焼くとたまに炭が舞うので、『ごめん!』って謝りながら(笑)」と伊藤さん。アクシデントも話題にしてしまうところはオーナーから受け継いだおだづもっこスタイルか、人なつっこい笑顔も好印象だ。
鮮度抜群の国産鶏を炭火焼鳥で堪能。ふわふわ食感の自家製つくねが絶品
店のいち押しは炭火で焼き上げる焼き鳥だ。生の国産鶏を使うので、鮮度のよさは折り紙付き。毎日手刺しで仕込む串を見せていただいた。
炭火の上で串を返す手さばきを間近で見ることができる、カウンター正面がベストな席。待ちきれずにどのくらい焼くのか聞いてみると、「何分とかじゃなく、感覚ですね。前の店長は元焼き鳥屋だったんで、教えてもらった感覚で、仕入れた肉の状態を見ながらですね」と伊藤さん。
つくねにはおすすめのタレ。創業から継ぎ足しのタレをつけ、また焼いていく。3度づけがおだづもっこ流だ。
お待ちかねの盛り合わせ3本が皿に並ぶ。まず、丸のまま切らずに串に刺さっている丸ハツは、レアすぎずほどよい柔らかさで、プリっとした弾力。ももはふっくら香ばしく、噛みしめると肉の旨味がしっかり。最後に、自家製のつくねが、串に刺さっているのが不思議なくらいふわっふわ食感。
「つくねは、1年前に店長になってから僕が考えたんです。和食でつなぎに使うたまもとをつくねに混ぜるんですね。卵黄と油を混ぜて乳化させて作るんですけど、マヨネーズから酢を抜いたものです。最初、柔らかすぎて串で刺すと崩れてきて(笑)、完成させるまで大変でした」。
伊藤さん自慢のつくねは、口の中でとろける食感で、何度も頼みたくなる一品だ。
華麗にアレンジした気仙沼塩辛に気仙沼ホルモン、地元名物を高円寺から発信!
気仙沼から届く塩辛を使った塩辛焼きそばは、創業からあるオーナー考案メニューだ。
「こだわりは塩辛ですね。気仙沼は港町で、塩辛がすごくおいしいんですよ!」と伊藤さんが、手際よく調理しながら教えてくれる。
味付けは、塩辛と生クリームのみととてもシンプル。小ネギと刻み海苔を盛り付けて完成だ。
出来上がった塩辛焼きそばを早速一口。焼きそばというより、パスタみたいな味わいにびっくり! もっとしょっぱいかと思ったら、塩辛も強烈ではなくほどよく、いい意味で期待を裏切られた。
「皆さん、驚かれますね。以前はもっとしょっぱかったんですよ。お客さんの様子を見て、少し味を塩辛くなくクリーミーに調整しました」と伊藤さん。
宮城の地酒にぴったりのご当地グルメ、気仙沼ホルモンがある。「味噌漬けのホルモンを炭火で焼いて、キャベツとウスターソースで食べるんです。昔、漁師さんが早朝に漁に出て、帰ってきて酒盛りが始まるときに、奥様方が野菜もとってほしいと、焼いたホルモンにキャベツを添えたのが始まりだとか。いわゆる漁師飯ですね」。
都内には、炭火焼きの気仙沼ホルモンを置いている店はなかなかないそう。気仙沼出身の人にも懐かしい地元グルメだ。伊藤さんも「僕もお客さんのときは、必ず頼んでましたね。野菜をとってる感じがして(笑)、よく食べてました」。
オープンと同時にやってきたのは、常連風のお2人。聞くと元店長さんだとか。厨房に立つ伊藤さんが、にこやかに話しながら手際よく注文に応えていく。
「高円寺の端っこで、みんなで楽しくやってます。お一人でも入りやすいですよ。ぜひ、お話ししましょう!」宮城・気仙沼の味にふれ、遠く離れた地を思いめぐらす。仕事帰りにふらりと何度か立ち寄れば、「おかえり」と笑顔で迎えてくれる店になるだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代