上野駅構内の旧貴賓室を活用したフレンチレストラン併設の小さなキャフェスペース

1932(昭和7)年に創建のアールデコ様式の装飾が施された上野駅に残る旧貴賓室はかつて、やんごとなき身分の方々が上野駅から列車を利用する際に使われた空間だった。そこに2002年にオープンしたのが、銀座にある老舗フレンチレストラン『銀座レカン』の姉妹店となる『ブラッスリー・レカン』だ。

この入り口を入った正面に『ブラッスリー・レカン』の扉がある。右側に見えているのがキャフェスペースだ。
この入り口を入った正面に『ブラッスリー・レカン』の扉がある。右側に見えているのがキャフェスペースだ。

ステンドグラスやシャンデリア、大理石のマントルピースで装飾された暖炉などがある優雅な室内で本格フランス料理がリーズナブルに楽しめるフレンチカジュアルレストランとなっている。で、今回訪れたのは、そのキャフェスペース。

コーヒー・紅茶・ジュースなどのソフトドリンクのほか、ビールやカクテルなどのお酒も楽しめる。
コーヒー・紅茶・ジュースなどのソフトドリンクのほか、ビールやカクテルなどのお酒も楽しめる。

店内に入ると、ヨーロッパのクラシックなパブのような雰囲気の落ち着いたスペース。カウンター、ソファー席があり、壁に散りばめられたフォトフレームやレトロな丸いペンダントライトにトキメいてしまう。

シックなヨーロピアン調の装飾で、これが日本の駅のコンコース内にあるとは思えない風情。
シックなヨーロピアン調の装飾で、これが日本の駅のコンコース内にあるとは思えない風情。
背もたれ部分がボタン止め装飾のクラシカルなイエローのソファーや、効果的に配された鏡が店内の狭さを感じさせない。
背もたれ部分がボタン止め装飾のクラシカルなイエローのソファーや、効果的に配された鏡が店内の狭さを感じさせない。

1日に約40万人近い人が行き交う上野駅構内の喧騒から切り離された静かな空間で、本格フレンチシェフが作る極上のカツサンドを隙間時間にいただく。お一人様ランチの愉しみを、またひとつ見つけてしまった。良き気分。

香ばしくトーストされたパン、なめらかソースは甘くスパイシー、カツはどこまでも柔らかい!

さて、運ばれてきたカツサンドがこちら。なんて魅惑的なカツの厚さ。付け合わせはフランスのニンジンサラダ、キャロット・ラぺ! 色の違うプチトマトにシェフの遊び心を感じてしまう。

カツサンド1200円。11:00~16:30のランチ限定。小さな付け合わせは、カツサンドをより楽しめるようにとのシェフの愛情だそうだ。
カツサンド1200円。11:00~16:30のランチ限定。小さな付け合わせは、カツサンドをより楽しめるようにとのシェフの愛情だそうだ。

手に持つ一切れでさえ十分に厚いゴージャスなカツを、トーストしたパンで挟んだこのカツサンドを食べるために、おちょぼ口の筆者は口を大きく開く努力を要したが、その甲斐あってパンとカツとソースが口の中にちゃんと収まった。カツが驚くほど柔らかく、この3つを一緒に味わってこその至福のおいしさだ。

『ブラッスリー・レカン』の支配人を務める八ツ井隆揮さん。
『ブラッスリー・レカン』の支配人を務める八ツ井隆揮さん。

「お肉自体は低温で火を入れて揚げてありますので、ボリューム感はありますが、すごくふっくら仕上がっております」とは、八ツ井隆揮支配人。使用している豚肉のブランドにはとくにこだわりはないそうで、なによりもこだわるのは火入れ。中心にほんのりピンクが残るプロの火入れだ。これが名店『レカン』の究極に柔らかいカツを作り上げている。

文化施設の多い山の手的エリアとにぎわう下町的エリア。多彩な顔を持つ上野ならではのフレンチを

キャフェスペースでカツサンドの軽食を提供するようになったのは、実はここ最近のこと。それまではリーズナブルでもフレンチにこだわったランチだったという。

キャフェスペースの外観。『銀座レカン』を象徴する“レカンレッド”を彷彿とさせる色合いの店構え。
キャフェスペースの外観。『銀座レカン』を象徴する“レカンレッド”を彷彿とさせる色合いの店構え。

「『レカン』といえば、どうしてもフランス料理がメインなので今までずっと続けていたんですけど、召し上がりやすさを出すために一度フランス料理から離れてみようと思って。でもちゃんとおいしいものを出していこうっていうこだわりも持っています」と、八ツ井支配人。

JR上野駅中央口改札を出たコンコースにある標識。レトロ館2Fレストランとある方向の1F左奥に『ブラッスリー・レカン』に併設の『キャフェスペース』がある。
JR上野駅中央口改札を出たコンコースにある標識。レトロ館2Fレストランとある方向の1F左奥に『ブラッスリー・レカン』に併設の『キャフェスペース』がある。

また、この新しい試みにチャレンジしたのは、やはり上野という立地もあったという。サンドイッチをやろうというところから、レカンのシェフやスタッフが選んだのがカツサンドだった。そして、そのカツサンドを作るのはフレンチのシェフ。

コンコースには広小路口、正面玄関口など、どこかレトロな景色を持つ出入り口がいくつかある。
コンコースには広小路口、正面玄関口など、どこかレトロな景色を持つ出入り口がいくつかある。

「フランス料理の火入れの仕方でじっくり揚げて、ソースも手作りです」という八ツ井支配人の表情に、フランス料理の老舗『銀座レカン』の自信とプライドを見た。このカツサンドは、上野という場所にあるレカンならではのフレンチだ。

取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)