上野駅構内の旧貴賓室を活用したフレンチレストラン併設の小さなキャフェスペース
1932(昭和7)年に創建のアールデコ様式の装飾が施された上野駅に残る旧貴賓室はかつて、やんごとなき身分の方々が上野駅から列車を利用する際に使われた空間だった。そこに2002年にオープンしたのが、銀座にある老舗フレンチレストラン『銀座レカン』の姉妹店となる『ブラッスリー・レカン』だ。
ステンドグラスやシャンデリア、大理石のマントルピースで装飾された暖炉などがある優雅な室内で本格フランス料理がリーズナブルに楽しめるフレンチカジュアルレストランとなっている。で、今回訪れたのは、そのキャフェスペース。
店内に入ると、ヨーロッパのクラシックなパブのような雰囲気の落ち着いたスペース。カウンター、ソファー席があり、壁に散りばめられたフォトフレームやレトロな丸いペンダントライトにトキメいてしまう。
1日に約40万人近い人が行き交う上野駅構内の喧騒から切り離された静かな空間で、本格フレンチシェフが作る極上のカツサンドを隙間時間にいただく。お一人様ランチの愉しみを、またひとつ見つけてしまった。良き気分。
香ばしくトーストされたパン、なめらかソースは甘くスパイシー、カツはどこまでも柔らかい!
さて、運ばれてきたカツサンドがこちら。なんて魅惑的なカツの厚さ。付け合わせはフランスのニンジンサラダ、キャロット・ラぺ! 色の違うプチトマトにシェフの遊び心を感じてしまう。
手に持つ一切れでさえ十分に厚いゴージャスなカツを、トーストしたパンで挟んだこのカツサンドを食べるために、おちょぼ口の筆者は口を大きく開く努力を要したが、その甲斐あってパンとカツとソースが口の中にちゃんと収まった。カツが驚くほど柔らかく、この3つを一緒に味わってこその至福のおいしさだ。
「お肉自体は低温で火を入れて揚げてありますので、ボリューム感はありますが、すごくふっくら仕上がっております」とは、八ツ井隆揮支配人。使用している豚肉のブランドにはとくにこだわりはないそうで、なによりもこだわるのは火入れ。中心にほんのりピンクが残るプロの火入れだ。これが名店『レカン』の究極に柔らかいカツを作り上げている。
文化施設の多い山の手的エリアとにぎわう下町的エリア。多彩な顔を持つ上野ならではのフレンチを
キャフェスペースでカツサンドの軽食を提供するようになったのは、実はここ最近のこと。それまではリーズナブルでもフレンチにこだわったランチだったという。
「『レカン』といえば、どうしてもフランス料理がメインなので今までずっと続けていたんですけど、召し上がりやすさを出すために一度フランス料理から離れてみようと思って。でもちゃんとおいしいものを出していこうっていうこだわりも持っています」と、八ツ井支配人。
また、この新しい試みにチャレンジしたのは、やはり上野という立地もあったという。サンドイッチをやろうというところから、レカンのシェフやスタッフが選んだのがカツサンドだった。そして、そのカツサンドを作るのはフレンチのシェフ。
「フランス料理の火入れの仕方でじっくり揚げて、ソースも手作りです」という八ツ井支配人の表情に、フランス料理の老舗『銀座レカン』の自信とプライドを見た。このカツサンドは、上野という場所にあるレカンならではのフレンチだ。
取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)