街の喧騒を離れた一角で人々を迎える隠れ家的レストラン
若い世代を中心に多くの人でにぎわう池袋駅東口。『AIN SOPH. soar IKEBUKURO』が入るビルは、駅から徒歩約10分、街の喧噪が嘘のように静かな一角にある。
場所がわからずに通り過ぎてしまう人も少なくないというお店の外観は、看板メニューのポスターが掲げられているものの、さながらしゃれたインテリアかグリーンのお店のよう。
お店の出入り口は中央に見える階段を上った中2階にある。左側にあるスロープを降りてエレベーターを利用することもでるので、ベビーカーを押す人にもやさしい。
菜食と心地よい空間に身を置いて“本来の自分に戻る”
ちなみに『AIN SOPH.』とはヘブライ語で「永遠・無限」、『soar』は英語で「高く上がる・舞い上がる」という意味があり、本店は銀座。ほかに新宿、京都などにも出店し、そのすべてがヴィーガンレストランだ。
「オーナーが学生時代の留学先であるカナダで菜食に出合い、肉や魚、乳や卵といった動物性食品を使わなくても十分おいしい食事ができるということ知り、それらを提供する『AIN SOPH.』を立ち上げました。そこには“本来の自分に戻る場所”という意味が込められています」。そう教えてくれたのは店長の石崎明子さんだ。
実は石崎さん自身も、『AIN SOPH.』に出合い“本来の自分”に戻った1人である。ショールームで顧客対応の仕事をしていたOL時代、「時間がない」と急かすお客さんに接するうちに、次第に仕事への疑問を感じるようになったそう。
「ある日仕事帰りに新宿の『AIN SOPH. Journey』に行き、そこで食べたパンケーキのおいしさ、そこに集う人たちが創り出す和やかで活気に満ちた空気に衝撃を受け、この中で自分も働きたいと転職を決意、今に至ります」。
通りから奥まった中2階にあるため外から店内が見えにくく、隠れ家的な雰囲気をもつ『AIN SOPH. soar IKEBUKURO』。階段で2フロアに分かれている他系列店とは異なり、フラットでゆとりのある空間が奥まで続き、客席のバリエーションが豊富なことも特徴だ。
入り口の階段を上る途中にちらりと見えるのは7人まで対応する予約制の個室。店内最奥にあるソファに囲まれた小上がり席は、小さな子連れのママたちやファミリー客、カップルにも人気があるという。
天に舞い上がるようなおいしさのヴィーガンパンケーキとは?
今日のランチは何をいただこう。ソイ(大豆)ミートを使ったボリューム満点のハンバーガーもいいし、週替わりのパスタもおいしそう、ワンプレートのごはんものも捨てがたい。
「池袋店は、コンセプトに添ったメニューを提供する本店や新宿店などのメニューの“いいとこどり”で、いろいろなメニューを楽しめるのが魅力です」と石崎さんが話すように、実に幅広いフードメニューをそろえている。
ここは、かつてお客さんであった石崎さんが衝撃を受けたという、あのメニューを食べねばなるまい!それこそが多くのファンに支持されている、天上のヴィーガンパンケーキ1760円だ。
運ばれてきた天上のヴィーガンパンケーキは見るから美しく愛らしい。厚みのあるパンケーキは、国産の小麦粉に植物性チーズなどを混ぜて焼き上げたもので、ふんわり、もっちり、しっとり。表面には、やさしい甘さのアガペシロップもかけてある。アガベはテキーラのもとになる植物で、甜菜糖とともにヴィーガン料理の甘味として用いられるものだ。
豆乳に甜菜糖を加えて泡立てたソイクレマホイップにかけられているのは、程よい甘さと酸味のベリージャム。トッピングのラムレーズンアイスは、アルコール分が気になる人はバニラアイスに変更もできる。
アーモンドやクルミ、カシューナッツ、パンプキンシードなどミックスナッツの食感も楽しく、ホイップやアイス、ジャムを付けながら食べ終わる頃には、お腹も心も満たされ、まさに天に舞い上がるような心持ちである。
「おいしい野菜が食べたい」という人も多く訪れる『AIN SOPH. soar IKEBUKURO』。パンケーキにセットメニューでミニサラダ330円を付けることもできる。
グリーンリーフにサニーレタス、紫キャベツにアーリーレッド、インゲン、キュウリ、アボカド、トマトなど、時期で野菜は変わるが、お皿からはみ出そうなほど山盛りたっぷりの野菜を見て、びっくりするお客さんも多いとか。
「毎朝届く大量の野菜は減農薬と一部無農薬が中心。厨房スタッフたちが野菜と対話をするように心を込めてやさしく手洗いし、お客さまにお出しするまで大切に保管しています」。
同じく330円で食後のセットドリンクも付けられる。オーガニックのコーヒーと紅茶、ハーブティーから選べるのだが、こういうお店にでも来なければあまり飲まないハーブティーをいただくことに。
しゃれたデザインの耐熱カップで出てきたのはカモミールティー。カモミールは、世界中で親しまれているハーブで、リラックス効果やストレス軽減にもよいという。心落ち着かせる香りとほんのりとした自然の甘味は、口中をさわやかに、心身を軽やかにしてくれる気がする。
ヴィーガンの人もそうでない人も一緒にテーブルを囲める喜び
ぱっと見、ヴィーガンレストランとはわからないこのお店。ここ2、3年でヴィーガンレストランと知って来店する人も増えてきたそうだが、それまではヴィーガンと知らないまま来店し、食事を楽しんで帰る人も少なくなかったそう。
「ヴィーガン料理は動物性食品を使用しないことから、卵や乳製品にアレルギーのあるお客さまもよくいらっしゃいます。ヴィーガンの発祥には動物愛護なども含まれ、アレルギーをもつ人のためではないのですが、ここではアレルギーがある人もない人も、一緒にテーブルを囲んで楽しく食事ができる。そういう姿にふれられるのは、ここで働く私の喜びでもあります」。
こんなにおいしい菜食なら、ぜひまた訪れたいと自然に思った『AIN SOPH. soar IKEBUKURO』。実は体重が気になる筆者だが、罪悪感なくお腹いっぱい食事を楽しめた。誰かに教えたい、でもあまり知られたくない、とっておきの池袋ランチにぜひおすすめしたい一軒になった。
構成:フリート 取材・文・撮影=池田実香