一徹な頑固オヤジのように、飾らず、手を抜かず、目指すは“昔ながらの中華そば”

北千住駅西口から徒歩2分。元小料理屋の雰囲気を残した、落ち着いた和の店構え。
北千住駅西口から徒歩2分。元小料理屋の雰囲気を残した、落ち着いた和の店構え。

『中華そば 一徹』は、和食・寿司店、居酒屋などを経営するオーナーが手がけるラーメン店。「いま、さまざまな流行のラーメンがあるなかで、オーナーが子供の頃に食べていた中華そばが、自分にとって一番おいしいラーメンだと思ったそうです」と教えてくれたのは、店を任されている店長の山下さん。

店名の由来は、野球漫画の名作「巨人の星」の主人公の父、星一徹。ラーメン作りに手を抜かず、スープがダメなら店を開けない、そういう頑固オヤジのやるような店にしたいとつけた名だ。

カウンター7席。上の棚にはティッシュと紙エプロンが用意されている。
カウンター7席。上の棚にはティッシュと紙エプロンが用意されている。

これまでも京鴨のラーメン店を2店舗オープンしてきたが、3店舗目のこの店では大山鶏を主軸にしたラーメンにこだわった。「子供の頃に食べていた、懐かしい中華そばといえば鶏スープだろうと。オープン時には、朝からオーナーが店に張り付いて、自らスープを作り上げたんです」。そのあとは店長の山下さんが引き継いで、オーナーが作ったベースのスープから、バランスをとりながら調整していった。

店長の山下さん。フレンチ、中華、和食など飲食一筋38年の大ベテラン。
店長の山下さん。フレンチ、中華、和食など飲食一筋38年の大ベテラン。

店長の山下さんの生家はラーメン店だった。「18歳で上京してからは、都内ホテルレストランに勤め、フレンチ、和食、中華料理など、38年飲食業界にいます」と、この道の大ベテランだが、ラーメン店は今回が初めて。

「ここまでラーメンが大変だと思わなかった。今までの飲食経験があったし、都内の老舗中華料理店で中華料理に9年携わったんですけど、中華のラーメンとはまったく種類が違いますね。食材ひとつとっても日々違って、毎朝味を見て調整しながら、ほんと大変だなあと。でも、それがおもしろいんです」と山下店長。

山下店長の語る言葉ひとつひとつから、ラーメンの奥深さにやりがいを感じ、丁寧に仕事に向き合いながらラーメン作りを楽しんでいる様子がうかがえる。筆者もこの贅沢なラーメンをいただくのが、ますます楽しみになってきた。

圧力釜で炊く大山鶏の丸鶏と鹿島灘の地蛤のスープを、生醤油がキリッと締める

スープは業務用の特別な圧力釜で炊く。「最初は寸胴でしたが、メーカーの勉強会に参加してこの釜を知り、使うことになりました。抽出度が全然違いますね」と、山下店長。毎朝、この鍋に味のベースとなる大山鶏の丸鶏、もみじ(鶏足)、香味野菜、昆布などを一緒に入れて加熱・加圧し、15時半頃には炊きあがるという。これはあとで見せていただくことにして、まずはともあれラーメンを1杯お願いした。

全部のせ中華そば醤油1000円。具はチャーシュー、メンマ、ナルト、ネギ、ワンタン、味玉、海苔3枚。
全部のせ中華そば醤油1000円。具はチャーシュー、メンマ、ナルト、ネギ、ワンタン、味玉、海苔3枚。
愛知県の傳右衛門たまり醤油を回しかけて提供。
愛知県の傳右衛門たまり醤油を回しかけて提供。

鹿島灘の地蛤は別に出汁をとり、先ほどの大山鶏などの出汁とブレンドする。そこに合わせる醤油ダレは、3種類の醤油をブレンドしたもの。最後に盛り付けた上から、江戸時代から続く老舗醸造蔵の生醤油を回しかける。生醤油がかかったところをひと口いただくと、キリっとした醤油がまろやかなスープを引き締める。

「最後の生醤油で、味が決まりますね。3種類の醤油をブレンドしたカエシも2日くらい寝かせています。このカエシは、すごい数の醤油を取り寄せて、オーナーが醤油を舐めまくってできたんですよ」と山下店長。

日清製粉の小麦粉・荒武者100%の全粒粉入り細麺。しっかりした食感でよい風味が広がる。
日清製粉の小麦粉・荒武者100%の全粒粉入り細麺。しっかりした食感でよい風味が広がる。

麺は2種類。今回は、オープンから使っているという、荒武者100%の全粒粉入りの細麺をセレクト。荒武者は、強いコシと弾力が特徴の日清製粉の業務用小麦粉だ。やや硬めの茹で加減でザクっとした食感の麺が、贅沢なスープとの絶妙なハーモニーを口の中で奏でる。昔ながらの中華そばにより近づけるなら、懐かしい味わいの玉子麺を選ぶのもアリだ。

麺は、昔ながらの玉子麺(左)と、荒武者100%の細麺(右)の2種類。
麺は、昔ながらの玉子麺(左)と、荒武者100%の細麺(右)の2種類。

チャーシューも圧力釜へ! スープに使う食材が絶品サイドメニューに変身

「今日のチャーシューは、北海道の四元神威豚です。カナダの三元豚だったり、うちのラーメンに合う肉を業者さんにお願いしています」と、山下店長。豚肉は、塩と塩麴でもんで冷蔵庫で寝かせ、大山鶏の丸鶏などを炊いたスープに漬けるという。それが、こちら。

スープが炊けたら、圧力釜から大山鶏の丸鶏、香味野菜、昆布などを取り出す。
スープが炊けたら、圧力釜から大山鶏の丸鶏、香味野菜、昆布などを取り出す。
塩麴に漬けたチャーシューを洗い、スープに投入。漬け込みから3日かけて完成する。
塩麴に漬けたチャーシューを洗い、スープに投入。漬け込みから3日かけて完成する。

濃度のあるスープの中でチャーシューを炊くことで、チャーシューにスープの旨味が入り、スープにも豚肉のおいしさが入るわけだ。「同じもので炊いてあげることで、いい連帯感も生まれるんですよ」と山下店長がいうように、チャーシューがスープとなじみ、1杯の丼の中でラーメンがひとつにまとまって、どこを食べてもバランスよくおいしい。

スープを炊くのに使われる豪華食材が、このあとどうなるのかも気になるところ。ちゃんとサイドメニューとして活かされている。

卵かけ風 鶏丼350円。出汁をとったあとの大山鶏の丸鶏をほぐして炊き、ミニ丼に。
卵かけ風 鶏丼350円。出汁をとったあとの大山鶏の丸鶏をほぐして炊き、ミニ丼に。

「こんなに大きな鹿島灘の地蛤は、そのまま焼いて食べてもおいしいですから、もちろん出汁をとったあとのものもサイドメニューとして活用しています。大山鶏の丸鶏も鶏丼にしたり、ワンタンの具にも入れてますね」

出汁をとったあとの食材も工夫して、おいしいサイドメニューにかえる。それができるのも、贅沢な食材ならではのこと。フレンチや中華料理など、飲食経験の長い山下店長の引き出しには、ラーメン+α的なおいしい魅力がまだまだたくさんありそうだ。

住所:東京都足立区千住2-52/営業時間:11:30〜20:00/定休日:不定/アクセス:JR・私鉄・地下鉄・つくばエクスプレス北千住駅から徒歩2分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代