つけめんの行列店が移転リニューアルで、旅館のような居心地のいい空間に
店主の瀨戸口亮さんは、つけめんの名店『六厘舎』の出身。『六厘舎』といえば、濃厚豚骨に魚介を加えたスープで誰もが食べやすいつけめんを築き、旋風を巻き起こした元祖・行列店。その初代店長を務めていたのが瀨戸口さんだ。その後、独立し2014年に三郷で自身の店をオープンしたが、開店と同時に行列店として不動の人気を確立。三郷時代には、常連だった筆者も足繁く通った。
そんな三郷での成功を持って心機一転、北千住に移転してリニューアルした店は、どちらかといえば飾らずアットホームだった前店とはガラリと変え、女性1人でも入りやすいおしゃれな店づくりを目指した。店のコンセプトは“大正ロマン風”。「四国の道後温泉に旅行したときに、こんないい雰囲気のお店にしようと決めたんです。女将と女性スタッフは和装で、まるで旅館でつけめんを食べてるみたいな居心地のよい空間にしたくて。そのほうが、さらにつけめんもおいしくなると思って」と瀨戸口店主。
そんな瀨戸口店主を支える女将のまやさんは、きめ細やかな接客に定評がある。「女将になる前にラーメン店としても、接客の素晴らしいお店としても有名な門前仲町の『こうかいぼう』の女将さんにお話を伺いに行ったんです。お客様がおいしく食べて気持ちよく帰るまでをアシストするのが女将の役目。店の主役はラーメンだと教えを受けました」。ほっこりと落ち着く雰囲気は、女将率いる和装の女性スタッフたちの内助の功があるからだ。
自慢のつけめんは食材のグレードアップでさらにおいしく進化
移転リニューアルとともに、進化したのはお店やスタッフの雰囲気だけじゃない。『さなだ』のつけめんが、さらにおいしくなったという。大きく変わったのは鳥取県の大山鶏がメインになったつけ汁。そこに豚骨・豚ひき肉、宗田鰹(そうだがつお)に伊吹煮干(伊吹いりこ)などを合わせ、鶏と豚の濃厚な旨味を煮干しなど魚介であっさり仕上げてある。『さなだ』専用に作られた浅草開化楼の特注麺はかなりの食べ応えのある太麺だが、サラリと食べられるのは、このつけ汁があってこそなわけだ。
「残すともったいないほど食材のグレードを上げての移転リニューアルでしたが、今は大山鶏もガラのほかに丸鶏を入れたり、炊き方を変えたり。いいと思ったことはどんどん試しながら、鶏の風味が立つ、さらにいいスープになりましたね」と語る店主の表情は、真剣そのもの。
通常のつけめんに、肩ロース、大山鶏のムネ肉、吊るし焼きバラ肉の3種のチャーシューをつけるチャーシュー増しの豪華なメニューがある。これも「もっとおいしいチャーシューを目指して、日々タレや炙り方などを細かく見直しています」と、瀬戸口店主。一口味わうと炙った香りやタレのうま味が広がり、絶妙な味わい。いままでも絶品だと思っていたチャーシューがさらにおいしくなっていて、お土産チャーシューを即注文してしまった。
移転後、「北千住で名物を作りたい」と瀨戸口店主が考案したチャーシュー握りがこれまた絶品。もちもちでやわらかいお米として人気の山形のミルキークイーンに、京都の高級山椒を振りかけ、国内産生姜と枕崎産鰹削り節を甘辛く炊き合わせた佃煮を添えたチャーシュー。細部にまで丁寧にこだわる『さなだ』らしい名物として、すっかり定着した。
子供からお年寄りまで愛される、『さなだ』流まぜそばで新たな挑戦
北千住で3年目。ファミリー層がメインだった三郷時代から、少し客層が変わった。「夫婦やカップル、女性同士で来られるお客様が増えました。クリスマスやバレンタインなどイベントに来られる方もいますね」と瀬戸口店主。金土日の週末限定のデザート、ソイパンナコッタは、おしゃれになった『さなだ』の新顔として女性やカップルに好評だ。
そして、つけめんと一緒に必ず頼みたいのが替えつけだ。特製ダレと鶏ほぐし、魚粉、玉ねぎを絡めていただく、三郷時代からの元祖名物。麺だけそのまま食べてもおいしい浅草開化楼の特注麺を、バラエティー豊かに食べさせてくれる『さなだ』の流儀である。
さらに2021年2月からは、新メニューの特製まぜそばが加わった。「替えつけは、あくまでつけめんの延長で飽きずにおいしく食べれる味変アイテム。だから、タレのベースもつけめんと一緒なんです。まぜそばは、単体で食べるものだからタレも濃厚。このストレート太麺に合わせるのが難しくて、手もみしてるんです」と瀨戸口店主。
濃厚なタレに太縮れ麺、具はチャーシュー、鶏ほぐし、鶏節、岩磯海苔、卵黄など、ボリューム満点の一杯だ。
ガッツリ系のまぜそばかと思ったら、具を絡めて食べ進めると意外とあっさり。つけめんと通じる味がする。「オニオン&ガーリックやマヨネーズで、うちっぽくないジャンキーさがある。でも、ジャンクだけにふらずに、和出汁を加えて、食べ終わったら『さなだ』食べたって感じの上品さも兼ね備えて。若い人だけじゃなく、子供や年配の方もおいしく食べられるように作ってます」と瀬戸口店主。
まだまだ、つけめんだけでは終わらない勢いの瀨戸口店主は、こう続ける。「いま、楽しさやエンタメ性など、そういうものが全部そぎ落とされて、作る側も食べる側も楽しくなくなったと思います。そのなかで少しでもワクワクするような、楽しくなるようなものを出していきたい。だからこれからも今のままじゃなく、どんどん進化し続けますよ。チャーシューもつけめんもね」。
そんな瀬戸口店主の次なる野望は、まぜそば専門の店なのだとか。そのひらめきは、「ジロリアン」なる熱狂的ファンを持つ『ラーメン二郎』からだそうで、店名を『さなじ』にしようと密かにたくらんでいるというのだから、思わず筆者は爆笑だ。いつもの気さくな口調で楽しい話もたくさんしてくれる、そんな瀨戸口店主が手がけるワクワクするようなおいしい新作が、今から楽しみだ。
※2022年4月から価格改定を行います
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代