やたらとインパクトのある看板と謎のキャラに誘われて

戸越銀座商店街に行くとき、都営浅草線戸越駅のA2出口から出ると、いつも目に飛び込んでくる看板がある。第二京浜国道越しのインパクトありすぎ看板、これが気になってしょうがない。博多スタイルの天ぷらって、あまり聞いたことがないけれど、普通の天ぷらとは違うのか。

戸越駅A2出口から第二京浜国道越しに見えるインパクトありすぎ看板。一度見たら忘れられない。
戸越駅A2出口から第二京浜国道越しに見えるインパクトありすぎ看板。一度見たら忘れられない。

看板の中や店頭にいるキャラクターはえび天のような、なんだか怪しい不思議キャラ。ガラス越しにそっとのぞくと、店の中は厨房とカウンター席だけのシンプルで広々とした作り。看板の謎キャラに応えて、揚げたてを喰らってみることにしよう。

店頭にも看板と同じ不思議なキャラクターが。店と比べると看板の大きさが際立つ。
店頭にも看板と同じ不思議なキャラクターが。店と比べると看板の大きさが際立つ。

これぞ揚げたて! 博多スタイル天ぷらを喰らう

店内の両側の壁には、サイン色紙がぎっしりと並んでいる。もしかしたら、天ぷら好きの間ではよく知られた店なのだろうか。

ランチの定食は、品数によって呼び名の変わる天ぷら・若鷹・デラックスと、チキン南蛮、唐揚げから選ぶ。メニューの、ランチタイムサービスコンボ、「絶対お得ッッ!!」の半熟玉子setが気になる。天ぷら7品の若鷹定食990円を上エビ+半玉にグレードアップ1200円でオーダーしてみた。

ランチの定食は品数が変わる天ぷら・若鷹・デラックスとチキン南蛮、唐揚げから選ぶ。半熟卵が気になる。
ランチの定食は品数が変わる天ぷら・若鷹・デラックスとチキン南蛮、唐揚げから選ぶ。半熟卵が気になる。

すると、目の前のカウンターには、みそ汁や明太子とともに、厨房で使うようなバットと揚げ網が。なぜこれが、ここに? と思いながらもテーブルに並べたら、カウンター越しに手が伸びて、エノキと上エビ、青じその天ぷらが到着。

みそ汁や天つゆ、明太子とともに、なぜかキッチンで使うようなバットと網が出てきた。
みそ汁や天つゆ、明太子とともに、なぜかキッチンで使うようなバットと網が出てきた。

油を切る間も惜しんでお皿の代わりのマイバットに並べられたのは、数秒前まで天ぷら鍋で音を立てていた、まさに揚げたて。すっ、すごい、というか、熱っ!ハフハフしながらかぶりつくと、カラリと揚がってサックサクッ。

プリッと歯切れのよいエビ、ときどき苦戦することもあるイカは、すっと嚙み切れる感動の柔らかさ。次に来たかぼちゃはホクホク、タマネギは甘みと歯ごたえがある。これが、謎キャラのいう「揚げたてを喰らえ」なんだな。揚げたて、最高。

カウンターの向こうから揚がったばかりの熱々天ぷらをどんどん入れてくれる。
カウンターの向こうから揚がったばかりの熱々天ぷらをどんどん入れてくれる。

そうこうしていると、見慣れない大物が来た。すかさずかぶりつくと、豚肩ロースのスライス肉。肉の天ぷらは初めて食べたけれど、これはありだ。今までどうしてなかったんだろうと思うほど気に入った。大きいから卓上のカレー塩や一味唐辛子、おろしにんにくを乗せて、思う存分楽しんだ。

女性の手のひらぐらいありそうな豚肩ロースの天ぷらもカラリと揚がって柔らかい。
女性の手のひらぐらいありそうな豚肩ロースの天ぷらもカラリと揚がって柔らかい。

最後は玉子。箸でそっと持ち上げると半熟具合が伝わってくる。すかさずご飯に乗せて、割ってみたら期待通り、とろっとろの黄身がご飯の上にあふれた。出汁の効いた天つゆをちょっと垂らして、スペシャルな玉子かけごはんのでき上がり。半熟玉子、これは追加しないと後悔する影の主役だ。

とろっとろの玉子の天ぷらは、必ずご飯の上で割るべし。
とろっとろの玉子の天ぷらは、必ずご飯の上で割るべし。

さらに、明太子と辛子高菜を投入。もやしのナムルも乗せて、わしわしとかきこむ。博多スタイル天ぷら、最高じゃないか。みそ汁でしめて、ふぅ~とため息をひとつ。

ご飯、みそ汁、明太子のお替りは無料で、単品追加もできるけれど、今日はこれで大満足。なんだか、勝手気ままに実家でご飯食べているような気分になった。

半熟玉子の天ぷらを乗せ、明太子、辛子高菜、もやしを好きなように投入して、自由気ままに味わう。
半熟玉子の天ぷらを乗せ、明太子、辛子高菜、もやしを好きなように投入して、自由気ままに味わう。

L字型カウンターに惚れ込み、『天ぷら食堂若鷹』OPEN

博多スタイルで店名が若鷹とくれば、勘のいい人ならもうお気づきだろう。店主の炭谷信介さんは、ソフトバンクホークスの本拠地、博多の出身だ。経歴はかなり異色。屈指のプロレス強豪大学の出身でプロデビューするために上京し、海外遠征も果たす。

「デビュー後はケガが多くて手術が必要なこともあったし、ケガをしていてもプロだからリングに立たなければならない。だんだん、プロレスラーとしての将来が描けなくなったんです。35歳の時に後輩と会社を作って、居酒屋やカラオケ店を経営しながら、プロレスの指導もしました」。

あるとき、毎朝通る第二京浜道路沿いに、閉店したラーメン店が売りに出されているのを見つけた。ふと気になってのぞいてみたら、広い厨房とL字型カウンターがある。この店なら故郷の博多スタイル天ぷらができると、ひと目で惚れ込んだ。この出会いが『天ぷら食堂若鷹』誕生のきっかけとなった。

このL字型のカウンターに惚れ込んで、2014年に博多スタイル『天ぷら食堂若鷹』をOPEN。
このL字型のカウンターに惚れ込んで、2014年に博多スタイル『天ぷら食堂若鷹』をOPEN。

博多スタイルの天ぷらはスピード感とテンポが命。試行錯誤しながら、今のシンプルなスタイルに落ち着いた。

「揚げ過ぎて水分が少なくなると硬くなるし、水分多めで時間がたつとべちゃっとします。博多の天ぷらは、揚げたてをすぐに出して、お客さんにもすぐ味わうスタイル。だから、カラッと揚がって柔らかいんです」。

2021年に新しくしたあの看板は、ソフトバンクホークスのキャラクターを作ったデザイナーに描いてもらったとのこと。謎キャラの名前はえび天くん。

「旅先の観光地で、かわいいわけじゃないのに、子供が大喜びで群がるキャラクターがいて、これだ! と思いました。友人にえび天の着ぐるみを作ってもらって、ときどき戸越商店街を歩いています」。

かわいいというよりも、ちょっと不気味なえび天くんは、インパクト大な不思議キャラ。
かわいいというよりも、ちょっと不気味なえび天くんは、インパクト大な不思議キャラ。

男性客が多いが、ひとりでふらりと訪れる女性客もいる。炭谷さんご夫婦やスタッフはみな子供が大好きで、店にはおもちゃやベビーチェアも常備している。

「うちにも今度小学校に上がる息子がいて、子育て中に外食する大変さがわかります。そんなときこそ、気兼ねせずに揚げたての天ぷらを食べに来て、元気になってもらえたらうれしいです」。

「揚げたての博多スタイル天ぷら、気兼ねせずに食べに来てください」と語る店主の炭谷さん。
「揚げたての博多スタイル天ぷら、気兼ねせずに食べに来てください」と語る店主の炭谷さん。

正真正銘揚げたての熱々を気ままにリーズナブルに味わえる博多スタイルの天ぷら。戸越に来たら、ぜひ立ち寄りたい。

住所:東京都品川区平塚1-12-5/営業時間:11:30~14:00・18:00~23:00(日・祝は11:30~15:00・17:30〜22:00)/定休日:月・火/アクセス:地下鉄浅草線戸越駅から徒歩1分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=松本美和