パンの種類がとにかく多い

生活に密着した町パンは、近隣住民が主な客層なため、駅から離れた場所にあることが多い。しかしそれでも、商店街沿いだったりするのだが、『メリーゴーランド』はまさに住宅地のど真ん中にある。店舗自体も小さく、まさに「知る人ぞ知る」な雰囲気がたっぷりなのだが、中にはいってまた驚いた。

店内は3人でぎゅうぎゅうの狭さ。そこに大量のパンが並ぶ。(現在はコロナ対策のため入店は1組まで)
店内は3人でぎゅうぎゅうの狭さ。そこに大量のパンが並ぶ。(現在はコロナ対策のため入店は1組まで)

サンド系の総菜パンから甘い系、さらに洋菓子に弁当まで。多種多様なおいしいものがぎっしりと、文字通りひしめきあっているのだ。まさに天国、あるいは異次元空間。なぜにここでこのようなベーカリーをやっているのか、店主の池田秀(まさる)さんに話を聞いてみた。

左が秀さん。現在は夫婦と息子さんの3人で店を営む。
左が秀さん。現在は夫婦と息子さんの3人で店を営む。

秀さんはもともと水元の出身。大学を出て一度はサラリーマンになったものの、独立して商売を始めたくなり、学生時代にアルバイトをしていたベーカリーをやろうと考えた。その際に、どうすればできるか、近所のベーカリーに相談に行ったところ、修業をすすめられ、立石にあるベーカリーで働き始めた。そして1985年、29歳のときに現在の地で『メリーゴーランド』をオープンさせたのだ。

住宅地で大成功

最初は現在の店舗に近い自宅のガレージでパンを売ろうと考えたものの、自宅が路地にあって、人目につかないため断念。近くで物件を探し、今の店になった。当初は「こんなところじゃ商売にならない」と周囲に言われたそうだが、これがしっかりと商売になったのだ。

モスよりうまいバーガー240円。確かにモスよりうまい!
モスよりうまいバーガー240円。確かにモスよりうまい!

秀さんいわく「パン屋は人が住んでいるところなら商売になる」。外食ならば人通りの多いところが、立地の絶対条件となるが、パンは基本的に買って帰って食べるもの。そこにパンを食べたいと思う人がいれば、駅前だろうと住宅街だろうと、商売になるのである。

店内では弁当も販売。ぎっしりでお安い。
店内では弁当も販売。ぎっしりでお安い。

順調な滑り出しを見せた『メリーゴーランド』は、さらに車での移動販売や南水元で店舗を借りての販売など、販路を拡大。さらに保育園や飲食店にパンを卸すようになり、一気に発展した。しかし忙しくて手が回らなくなったうえに人件費もかさんで、商売的にはマイナスに。現在は移動販売をやめ、卸は続けているものの、店舗販売は現在の店のみとし、安定しているという。

「メニューを考えるのが楽しい」

ここまでの流れで、秀さんがバイタリティあふれるタイプというのは、想像がつく。店内に所狭しと並べられた多様なパンのメニューも、そこから生まれたものだろう。しかし、それにしてもの数。店に出るものは70種類ほど。今は出していないものも含めると、何百種類というメニューがあるのだという。

のり明太ハムエッグサンド150円。意外な組み合わせが合う!
のり明太ハムエッグサンド150円。意外な組み合わせが合う!

それらが生まれた経緯が面白い。たとえば人気商品のバターロールは、かつての修業先で作ってたパネトーネ(イタリアの発酵菓子パン)を作っていて、「その生地でバターロールを作ったらおいしいのでは?」と考えて作り出したもの。

店頭でもしっかり宣伝。
店頭でもしっかり宣伝。

ほかにも食事にいったときに食べたメニューから、人からもらったお菓子からなど、発想の源はさまざま。もちろん、これまでに失敗作は数多くあったそうだが、「うまくいかなくてもいいんです。うまくいかなかったことが分かっただけでも、十分ですから」と、秀さんはこともなげだ。

棚はパンでギューギューです。
棚はパンでギューギューです。

「苦労を感じたことはない」「新しいメニューを考えるのが楽しい」という秀さん。その血を受け継いだのか、二代目の息子さんも、いちごのキューブチョコが入ったツイストパン「黒トラのしっぽ」など、しっかり新商品を開発している。これからも『メリーゴーランド』では、新メニューがどんどん出てきそうだ。

プライスカード。これは甘いもののもので、全体の一部。
プライスカード。これは甘いもののもので、全体の一部。

最近はテレビ番組で紹介されたことや、SNSでの宣伝効果などもあって、近隣の住民だけでなく遠くから来てくれるお客さんも多いという。立地自体は「ポツンと」ながら『メリーゴーランド』のパン愛は、十分に伝わるのだろう。

住所:東京都葛飾区水元4-2-13/営業時間:9:00~19:00 (日・祝は9:00~13:00)/定休日:月/アクセス:JR常磐線金町駅から京成バスで約10分、徒歩で30分

取材・撮影・文=本橋隆司