子供からお年寄りまで安心して食べられるおいしい「にぼしラーメン」

店は旧中山道の不動通り商店街、そば屋の跡地。正面の八百屋も古くからある。
店は旧中山道の不動通り商店街、そば屋の跡地。正面の八百屋も古くからある。
店主の市川博之さん。昨年改装したばかりの厨房で。
店主の市川博之さん。昨年改装したばかりの厨房で。

店主の市川博之さんは、有名店『麺屋 宗』『ラーメンABE’s』の出身。

『麺屋 宗』時代は、高田馬場本店から板橋・常盤台の店舗の立ち上げなどで腕を磨くこと4年。そこで一緒に働いていた先輩の安部さんが独立、静岡に『ラーメンABE’s』をオープンし、市川さんも後を追い静岡へ。

「自分も独立を考えていて、ラーメンに対する考え方や味は『ABE’s』のほうが自分に合ってるなと思って」。静岡で1年の住み込み生活を経て、念願の独立に向かって板橋に辿り着いた。店探しから工事まで半年くらいかかったが、「ここで勝負してみよう」と思ったそう。

カウンター席のほか、テーブル2卓に小上がりもある。小さな子供連れやお年寄りもゆっくり寛げる雰囲気がいい。
カウンター席のほか、テーブル2卓に小上がりもある。小さな子供連れやお年寄りもゆっくり寛げる雰囲気がいい。

『麺屋 宗』と言ったら、塩ラーメンの名店。じゃあ、こちらでもやはり塩が一推しかと思ったら、市川さんのおすすめは、にぼしラーメン(しょうゆ)だった。

実は先輩の安部さんは、調布の『たけちゃんにぼしらーめん』でも修業していた。「『ABE’s』にいた時、毎日賄いのラーメンを食べてたんですよ。ご飯と味噌汁みたいな感覚で毎日食べられるラーメンって初めてでしたね」と市川さん。そこで惹かれた煮干しラーメンから7年を経過して、さらにブラッシュアップした一杯がこちら。

にぼしラーメン(しょうゆ)780円。独特の芳ばしさのある煮干しの風味にあっという間にスープまで飲み切ってしまった。
にぼしラーメン(しょうゆ)780円。独特の芳ばしさのある煮干しの風味にあっという間にスープまで飲み切ってしまった。

スープは、千葉と長崎の煮干しを3種類ブレンドし、北海道のがごめ昆布、鰹の厚削り、醤油ダレにキッコーゴ醤油などを合わせたもの。水出しの煮干しと、直前に追い煮干しをして香りをつけ、さらに香油も煮干しで独特の芳ばしさのある煮干しの風味になるわけだ。

「今風の強烈なクセは弱いかもしれないですけど、身体にすーっと入っていく毎日食べられる味です。なんとなくまた食べようかなって思ってもらえるといいですね」

市川さんがオープンから目指してきた、子供からお年寄りまで安心して食べられる、そして毎日食べられる味だ。

麺にも煮干しにもすべての食材へのこだわり

にぼしラーメンには、ちょっと長めでスープをよく持ち上げる細麺を使っている。「『麺屋 宗』で常盤台を任されていた時に営業にきて取り始めて、その時からの付き合いの三河屋製麺の麺です」と市川さん。

しかし、麺はオープンからかれこれ4、5回は変わっているという。麺にウエイトを持たせるか、スープにウエイトを持たせるか、その都度配合を変えてみたり、お客さんの食べやすさも考えて変わってきたそうだ。ほかにも、つけ麺が平打ち麺、期間限定の味噌が中太麺と、それぞれ使い分けている。

三河屋製麺のしなやかな細麺。やや長めでスープののりがいい。
三河屋製麺のしなやかな細麺。やや長めでスープののりがいい。

細やかな麺の調整などこだわりが感じられるが、さらには自家製麺も考えているという。「『ABE’s』も今は自家製麺ですし、同じく『宗』出身の上野『らーめん 藪づか』も自家製麺で、影響を受けますね」と市川さん。

スープに、麺に、すべての食材にかける職人気質は、出汁をとり終わったあとの煮干しの出汁がらにも向けられる。

にぼしのしょうゆ漬120円。ご飯にのせたにぼし漬丼としても人気のサイドメニュー。
にぼしのしょうゆ漬120円。ご飯にのせたにぼし漬丼としても人気のサイドメニュー。

にぼしのしょうゆ漬は、腸と頭をとって丁寧に下処理をしてから醤油ダレで炊くという、手間のかかる一品だが、「煮干しがもったいないんですよね」と市川さんは言う。

少しでも廃棄食材が減るようにと考案されたものだ。お客さんのことを考えて試行錯誤したり、手間隙かけて丁寧に作ったり、食材にかける愛情も……。おいしいラーメンの理由が少しずつわかってきた。

女将の作るデザートはラーメンとセットで注文する人多し

楽しみだったチャーシュー。肉が苦手なお年寄りでもペロリといけそうな、脂もしつこくなく食べやすい仕上がりだ。色の濃さから焼豚かと思ったら煮豚だった。

「オープンした時からよく言われるんですけど、醤油の色なんです。豚バラを醤油で煮込んで、あとはそのまま味がしみこむまで冷ますと、外側は濃い醤油の色になります」。

チャーシューは醤油で色濃く炊き上げた煮豚。テイクアウトも可能。
チャーシューは醤油で色濃く炊き上げた煮豚。テイクアウトも可能。

奥様の薫さんお手製のデザートも人気のサイドメニューだ。もともとケーキ店でパティシエだったというから本格的。市川さんが常盤台で働いていた頃に知り合って、板橋で独立する時に「ケーキ屋さんをやめて、店を手伝ってくれるようお願いしました」と、ほほえましいなれそめ話もこの店の雰囲気にぴったりだ。

市川店主と奥様の薫さん。薫さんは常盤台のケーキ屋でパティシエをしていた。
市川店主と奥様の薫さん。薫さんは常盤台のケーキ屋でパティシエをしていた。
女将お手製の気まぐれデザートは、ほとんどの人がラーメンと一緒に注文する。
女将お手製の気まぐれデザートは、ほとんどの人がラーメンと一緒に注文する。

「板橋の方は、みんな優しいですよね。帰ってきた感があって、ほっとします」と市川さん。板橋に店を出し、移り住んで、近隣の店にも通い、商店街の方々と付き合いが深まっていく中で、新たな決意を伺った。

「店舗を増やすとかはできる人間じゃないんで、自分がこの店に立って、これからも地域に密着してやっていきます」。

住所:東京都板橋区板橋3-14-2/営業時間:11:00〜14:30・17:30〜21:00 ※スープなくなり次第終了/定休日:月夜・火/アクセス:地下鉄三田線板橋区役所前駅から徒歩3分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代