日本橋の真ん中で50年間営業を続ける洋食の老舗

日本橋の交差点からわずか十数メートルの場所に、この地で50年以上営業を続けている洋食の老舗『レストラン東洋』がある。同じ一角には国分グループ本社や『榮太樓總本鋪』など江戸時代からの古い歴史をもつ会社や店舗もある、日本橋でも昔ながらの風景を残す場所だ。

日本橋交差点のすぐ近く。歴史を感じさせる緑の大きな看板が目印。
日本橋交差点のすぐ近く。歴史を感じさせる緑の大きな看板が目印。
サンプルケースを眺めれば早くも食欲が刺激される。
サンプルケースを眺めれば早くも食欲が刺激される。

クラシックな周り階段を上がると、そこに広々とした洋食スペースが。中央通りを見下ろせる一面の窓から明るい日差しが差し込み、店内を明るく引き立てている。店内にはこの大きなスペース以外にも、数十人が会して食事が楽しめる個室も用意されている。

窓からは日本橋の中央通りが見下ろせる。
窓からは日本橋の中央通りが見下ろせる。

この店で初めてエビフライ、ハンバーグを食した方も

「なにせ古い話で分からないことも多くて」と言いながら、いろいろなエピソードを教えてくれたのは、支配人の北村親一さん。もともとこの地に開店したのは昭和38年(1963)のこと。最初は甘味処としてのスタートだった。その後、今の東洋ビルが建てられ、昭和41年に『レストラン東洋』が創業された。今から50年以上前のことだ。

支配人の北村親一さん。『レストラン東洋』の創業者のひ孫にあたる。
支配人の北村親一さん。『レストラン東洋』の創業者のひ孫にあたる。

当時はまだまだ洋食が珍しく、ハンバーグやエビフライ、ビーフシチューなど洋食の定番ともいえるものが提供されていたが、お値段も高く、特別な時に出かける高級なレストランとして営業されていた。時代と共に洋食が少しずつカジュアルなものに変わり、『レストラン東洋』も気軽に楽しめるレストランへと形を変えてきたとのこと。それでも今のようなメニューをお手ごろな価格で提供し始めてから30年近くはたっているという。

「初めてエビフライとハンバーグを食べたのがうちの店、というお客様もいらっしゃいました。その方には今も時々来ていただいています」と北村さん。

『レストラン東洋』の店名の由来をお伺いすると「それがわからないんですよね。洋食なので西洋ならわかるのですが。ただこの日本橋の界隈にはわりと『東洋』と名付けられた会社やお店がなぜか多いんですよ」と北村さん。もちろんお互いの関係はないとのこと。

もう50年近く、日本橋の人々に愛され続けているその秘訣についてもお聞きしてみた。「やはりこの場所にあるというのも大きいのでしょうが、手作りにこだわっているところもあるのではないでしょうか」。

フライものは全て素材から調理。注文を受けてから揚げていく。
フライものは全て素材から調理。注文を受けてから揚げていく。

「デミグラスソースやベシャメルソース、タルタルソースなどは時間をかけて作っていますし、フライものもすべて材料から自分のところで調理しています。こうしたこだわりの部分やいつも変わらない味をご提供している安心感なども多くのお客様にも愛されている部分かもしれませんね」と北村さん。

お客さんの中には、なじみの店員さんに会うのをもう1つの目的にしている方も多いとのこと。「私が支配人になった30年ほど前から働いてもらっている料理人や接客スタッフのみんながいるから、変わらない味とサービスをご提供できているのだと思います」とも北村さんは語る。

定番人気のBランチは味もボリュームも高次元

この日いただいたのは、いつも変わらず人気となっている1000円のBランチ。海老フライ2本と目玉焼きハンバーグ、それにご飯のセット(パンを選ぶこともできる)。

いつも変わらない人気、定番のBランチ1000円。
いつも変わらない人気、定番のBランチ1000円。

まず驚かされるのはそのボリューム。ハンバーグも厚く、海老も存在感大、立体的にお皿に盛られている。もちろんそのかたわらには自家製のタルタルソースがたっぷり。特に男性なら、お皿の上に好きなものしか乗っていないという幸せの一皿でもある。

ハンバーグは肉感がすごく、ひき肉なのにしっかりとした歯ごたえもあり、デミグラスソースと肉汁が相まってご飯を呼ぶ。海老フライもぷりぷりで、玉子の食感がしっかり残る自家製タルタルソースとの相性も最高。値段のことで恐縮だが、「この価格で大丈夫?」と勝手な心配をしてしまう。

このランチのレベルを味わえば、次はカキフライかナポリタン。いやいや限定20食のブタヒレカツか。もちろんランチビールもつけたいな! と、Bランチを食しながら別のメニューを探るという幸せかつ、ちょっと下品な行為にも出てしまう。

そしてハンバーグ、海老フライ、ご飯の幸せなランチ(そしてメニュー表)に熱中しながらも、ふと窓の外を眺めれば、そこには日本橋の風景。眼下には道を歩く人たちの姿も見える。ランチだけでなく夕方前に訪れて、洋食をツマミにゆっくりビールなど飲みながら、夕方を迎えようとする日本橋の風景をながめるのも良いだろうな、と思ってしまう。

魅力の品々が並ぶお昼のランチメニュー。
魅力の品々が並ぶお昼のランチメニュー。

50年間ここで営業している老舗だけに、お店だけでなく日本橋全体の発展のためにいろいろ活動されている。「社長であるうちの父が、日本橋を盛り立てるための会合などにも参加させていただいています。箱根駅伝のコースを変えて日本橋の麒麟像の前を通るようにご提案したり(実現!)、まだまだ先になりますが、日本橋の上を通る高速道路を地下化して、日本橋の空を取り戻そう、というお話も決まりました」と北村さん。

ただ「この辺りは江戸時代から続くお店や会社も多いので、うちなどまだまだ新しいほうです」とのこと。さすが時代小説の舞台に頻繁に登場する日本橋。まだまだ発見がありそうだ。

住所:東京都中央区日本橋1-2-10 東洋ビル/営業時間:11:00~23:00(土・祝は11:00~17:00)/定休日:日・第3土/アクセス:地下鉄日本橋駅より徒歩2分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠