そのお値段とボリュームに驚きを隠せないうな焼おにぎり
うなぎはおいしい。精がつく。そして食べれば気分も上がる。だけどおいそれとは食べられない、ハレの日の食べ物だ。そんなうなぎをもっと手軽に楽しんでほしい、と店主の西堀さんが考案したのがうなぎの焼おにぎりだ。日本人のソウルフードおにぎりとうなぎのコラボ? もう最強じゃないですか。
炭火で焼いた国産鰻焼おにぎり1個500円が運ばれてきた。この日のうなぎは宮崎県産。タレがたっぷりと染み込んだおにぎりの上に、大きなうなぎが載っている。いやこれは想像以上のボリュームだ。よくばって2個注文したのだが食べられるだろうか?(いや、もちろん食べますけどね。)
うなぎの上には、とびきり香りのいい和歌山県産のぶどう山椒をたっぷりとかけていただきたい。ぶどうの房のように実がなることからこう呼ばれるのだという。山椒ってこんな爽やかな柑橘系の香りがするんだ、と思ったら、なんとミカン科の植物なのであった。舌にピリッとくる痺れがうなぎの味を引き締めてくれる。
見るからに肉厚のうなぎで、一口食べてみるとプリッとした食感。今ここにビールがないのが本当に残念である。
西堀さんはおにぎりをふたつ注文した筆者に、うなぎの「腹」と「尻尾」の両方の部位を出してくれた。腹は言わずもがな、脂がのっている部位だ。そして尻尾の部分は筋肉質で身が引き締まっている。うなぎの部位による食べ比べを楽しむなんて今まで思いつきもしなかったが、これもまたオツなものですね。
さてもうひとつ注文したのが肝串450円だ。いわゆるレバーの独特の味と香り、そしてコリコリとした食感の部位もあり、好きな人にはたまらない一串だ。
きっかけはクラフトビール
『浅草うなな』は浅草寺や花やしきに程近い「初音小路飲食店街」という細い路地にある、2020年9月にオープンした店だ。ちょうど新型コロナウィルス拡大の時期と重なったため、状況を見極めながらの営業が続いている。それゆえ、店の知名度はまだまだ低い。
店のオープンのきっかけはクラフトビールだった。ビール好きでもある西堀さんは、クラフトビールづくり体験でその楽しさに目覚め、自分の醸造場をつくりたいと考えた。しかしクラフトビールといえばすでに都内でも各地に存在しており、その中で個性を出すのはなかなか難しい。
そこでまずは自分がつくるビールを提供できる場をつくろうと、飲食店をオープンすることにしたのだ。もともと人情味あふれる下町への憧れもあり、また人が多く集まる場所でもあるので、ここ浅草を選んだのだという。
メニューはベテランの職人さんと一緒に考えながら作っているそうだ。手軽に食べられる国産鰻焼おにぎりや肝串のほか、もっとしっかりとうなぎを楽しみたい人のためにうなぎの蒲焼きやうな重もある。国産うなぎにこだわりながらも「まだ新参者なので。」と他のうなぎ専門店に比べれば破格の値段でうなぎを提供している。
2022年春にはすぐ近くに立ち飲みの店もオープンさせる予定だ。「まずはこのふたつの店の地盤を固めてから、その先へいこうと思ってます。」と西堀さん。クラフトビール醸造計画はあと少しだけ先になりそうだ。
メニュー以外にもちょっとしたこだわりあり
メニューの注文は食券制になっている。うなぎの食券機、初めて見ました。そしてそういえば、店先を見まわしても『浅草うなな』という店の看板が見当たらない。
「いやー、うなぎの看板があるからうなぎ屋ってわかるかなぁ…なんて。」と西堀さんは笑った。
皆さん、店にたどり着くときは、ぜひこのうなぎの看板を探してみてください。
ちなみにこちらはうなぎのちょうちん。ちょっと今まで見たことがない。思わず西堀さんにツッコんでみたら、なんとデザイナーさんに特注で作ってもらったのだそう。いたるところにこだわりありですね。
「知名度ゼロだけどおいしい!」とネットでつぶやかれたというほど、まだまだ世には知られていない店だ。でもこれからじわじわと、浅草食べ歩きグルメの新名物となりそうな予感がする。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪