横丁にある扉は別世界への入り口
下北沢の老舗劇場『ザ・スズナリ』をはじめ、スナックやバーなどが軒を連ねる鈴なり横丁。そんな横丁の一画に2017年から店を構える『バッキンガム宮殿 Suzunari』が、10代・20代の女性を中心に人気を呼んでいる。それにしても、かなりディープな雰囲気の鈴なり横丁になぜ若い女性が集まるのか?その理由を知るために扉を開いてみた。
店内は、10席のバーカウンターのみ用意されたこぢんまりとした空間。カウンターの奥の棚には、多種類のお酒がずらりと並んでいる。昼間はカレーを提供しているが、もともとはバーがメインだったためこのようなスタイルになっているのだそう。
店名のとおり“宮殿”をイメージした空間は、花柄の天井やシャンデリアなど、ひとつひとつの装飾からエレガントな雰囲気を味わえる。店の外からは想像できないほどの別世界だ。
なぜこんなにも風変わりなコンセプトにしているのか。オーナーの山本さんに伺ってみると、「お客さんを楽しませたいから」というシンプルな答えが返ってきた。実はこの店がオープンする前から近隣で営業していた系列店も、同じ理由から『BUDOKAN』や『東京DOME』など日本人なら誰もが知っている建物の名前がつけられている。
そんな山本さんのユニークな発想が日本を飛び出し、今度は世界の名所の名が冠された店が誕生したというわけだ。華やかな店内の装飾やメニューも“宮殿にありそうなもの”をテーマに形づくられた結果、SNS映えを求める若い女性の支持を集めていった。
子どもから大人まで楽しめる、魅惑の宮殿カリー
最初はバーとしてオープンした同店だが、ランチにカレーを提供してみたところ想像以上に評判が良く、たちまち看板メニューとなった。それが店内に負けないくらいフォトジェニックな宮殿カリー。考案したのは、下北沢で年に一度開催されるカレーの祭典「下北沢カレーフェスティバル」の、メインマスコットキャラクターとして活躍する“カレーまん”というのも面白い。
カレーを彩るのは、焼きナスやトマト、パセリに福神漬けなど個性豊かな具材たち。鮮やかな黄色が美しいターメリックライスには、生卵ものせられている。
宮殿カリーのベースとなっているのは、およそ5種類のスパイスを使ったバターチキンカレー。「誰でも食べられるカレーにしたい」という思いから、小さな子どもや辛いものが苦手な人でも食べやすい辛さに調整されている。さらにシナモンを効かせることで、重たいイメージのバターチキンカレーを香り豊かで爽やかな一皿に仕上げた。
やわらかいチキンがまろやかなルーと絡み合い、トマトや福神漬けなどの具材が交互にアクセントとなって気がつけば夢中で食べてしまう。生卵をくずしながら食べると味わいが何段階にも変化するので、最後まで楽しく味わえた。
カレーをさらに華やかに彩りたいなら、クランベリージュースで漬け込まれた桃色玉子のピクルス200円がおすすめ。ほどよい酸味と、半熟卵のとろりとした食感がカレーのよき相棒となってくれるだろう。
また、17:00~20:00まで(土日祝は16:00~)のハッピーアワーには宮殿カリーは900円となり、数種類のアルコールやドリンクもワンコイン(500円)で味わえるのがなんとも魅力的だ。
鈴なり横丁の中でも、ひときわ摩訶不思議な雰囲気を放つ同店。初めての来店だと少し入りづらさを感じそうだが、意外に一人で来店する人も多いそう。それもそのはず、明るくて優しいスタッフたちが笑顔で出迎えてくれるので安心感がある。
カレーの見た目や店内のインパクトはもちろんだが、本格的なカレーの味わい、そして明るいスタッフの雰囲気。下北沢随一のディープなエリアにありながら、若い女性を魅了してやまない理由がここには詰まっていた。
取材・文=稲垣恵美 撮影=渡邉 彰太