ひっきりなしに客が出入りする、小さな間口の気軽な洋食屋
高円寺駅からすぐ。雑然とした路地に「NEW-BURG(ニューバーグ)」と書かれた小さな扉がある。知らなければ通り過ぎてしまいそうな小さなこの店は、席はカウンターのみ、ハンバーグステーキ580円からという気軽な洋食屋だ。しかし、高円寺で50年以上の歴史を持つ老舗で、開店から閉店まで絶え間なく客が出入りする。地元の人はもちろん、この味を求めて遠方から来るファンも多く、「高円寺のソウルフード」といわれている。
この店を営むのは平井さん兄弟。ハンバーグはもちろん、コロッケやソース、ドレッシングに至るまで、店からすぐの工場で一から丁寧に手作りし、最終的には店内で仕上げるのがおいしさの秘密だ。店内での工程が少ないため、スピーディーに提供されるメリットもある。
主に総菜工場は兄の誠一さんが担当し、店での調理は弟の仁さんが担当している。
えっ?すべてのメニューに、ライス、味噌汁に目玉焼きまでついてくるの?
初めてならば、看板メニューであるデミグラスソースのハンバーグを。サービスセット680円なら、日替わりの揚げ物が付いてくるのでお得だ。すべてのメニューにライス、味噌汁、目玉焼きが付く。懐にやさしい料金設定がうれしい。
入り口にある券売機にお金を入れてボタンを押すと、メニューの記号が書かれたプラスチックの札がカランと音を立てて落ちてきた。どことなく懐かしい……。
いや、懐かしい感じがするのはそれだけではない。店内全体がそんな雰囲気に包まれているのだ。創業時から、ほとんど変わってないという内装は、歳月を経て全体が飴色。目の前には黒電話。昭和の洋食屋といった佇まいを感じる。
待ち時間はほんの数分。無駄のない動きで一皿一皿提供される
まずは厨房のグリドルに卵を一つ。じゅうっという音が響いた。煙が出るまで炙った鉄の皿に付け合せをのせていきながら、たっぷりのラードでハムカツを揚げる。揚げ物はコロッケだったり、エビフライだったり、とその日によって様々なのが楽しい。
熱々に焼いた鉄板にハンバーグを乗せ、ソースをかけると、ぐつぐつ煮立つデミグラスソースのいい香り。目玉焼きもおいしそうなぷっくり感。付け合せはスパゲッティとミックスベジタブルと、ちょっと珍しいサツマイモのフライ。お手本みたいな洋食屋さんのハンバーグができあがった!
ニューバーグの誇りである、牛骨からスープを取って作るデミグラスソース
艶々と輝くデミグラスソースのとろりと奥深いコクがハンバーグと絡み合う。
「牛骨からスープを取って作るデミグラスソースは、ニューバーグの誇りなんですよ」と兄の誠一さんは話す。時間も手間もかかる作業だが、工場でまとめて作ることで効率よく提供できるメリットは大きい。品質についても強いこだわりがあり、安定したハンバーグの味が出せる肉の仕入先を探し続け、ようやく10年ほど前に決定したという。
少し薄手に思えるかもしれないが、豚肉3、牛肉7の合挽き肉を丁寧に練り込んだハンバーグは、肉汁たっぷりのふっくらしたおいしさだ。ねちっとした肉感で、噛むごとに旨味が広がる。ぎゅっとした弾力も魅力で、包み込むソースが、ハンバーグの味をますます引き立てている。
付け合せのスパゲッティはラードで炒め、塩コショウをしたシンプルなものだが、実は隠れた人気メニューで、プラス50円で増量する人も多いそう。本日の揚げ物であるハムカツは、ジューシーなハムにカリッと厚めの衣がたまらない。
あー、やっぱりラードの揚げ物はいいなあ。
初代オーナーと父から継承された味を守り続ける
初代のオーナーがこの店をオープンしたのが50年以上前。平井さんの家族も利用する、庶民的な価格が人気の洋食屋さんだったという。
しかし、ファミリーレストランの時代の訪れに、店は大きな影響を受け、初代オーナーは店を閉めることを考えるように。それを聞き、店を買い取ったのが平井兄弟の父・誠さんだった。ポテトサラダなどの総菜を扱う工場を営んでいた誠さんは、ハンバーグやコロッケなどを工場で仕込めば、工場と店が効率的に稼働できるのではないかと考えたのだ。
初代オーナーが作り上げた洋食と、その味を継承した誠さんの総菜工場。2つの役割が両輪となり、店は再度盛り上がりを見せる。その後、初代オーナーの味は兄弟へと引き継がれて早30年以上。時代は移り変わったが、今も50年前の味を守り続けている。家族4代で訪れるファンもいるというこの店を「できる限り維持していきたい」と兄弟二人で語ってくれた。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ