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profile:湯沢祐介(ゆざわ ゆうすけ)
1980年東京都生まれ。
月に500匹以上のペット撮影を手がける。
七色の声を使い分けてわんちゃんの気を引き、猫じゃらしで猫を操りながら撮影するペトグラファー。
その巧みな猫じゃらしさばきから「猫じゃらしの魔術師」の異名を持つ。
写真教室講師、原稿執筆、テレビ出演、レンタルフォト撮影など多岐にわたる活動をしている。著書多数。

自分のご飯以外は絶対に食べない!居酒屋の看板猫さん

感染防止のためお客さんのいないオープン前にお店へ。

店内に入ると店主の中村さんが厨房で仕込みの真っ最中です。

窓際の席に目をやると看板猫のトムくんを発見。

「こんな時間に知らない人が来たぞ?」と様子を伺うように立ち上がりますが

特に興味もなかったようで再び座布団の上でおくつろぎになりました。

「この子とっても賢いんですよ」と店主の中村さんが厨房から出てきて話してくれました。

なんでもトムくんはお客さんが来ても自分のご飯以外は絶対に食べようとしないのだそうです。

鶏料理や魚料理が魅力のお店にいながらその誘惑に負けないとは、なかなかの精神力。

さすがは看板猫ですね。

とても壮絶な出会い

中村さんの膝にちょこんと座るトムくん。かわいいですね。
中村さんの膝にちょこんと座るトムくん。かわいいですね。

そんな穏やかでかわいいトムくんですが、中村さんとの出会いはとても壮絶なものでした。

 

仕事帰りの深夜2時ごろ、中村さんはとある駐車場で何かが倒れているのを発見します。

近づいてみると車に轢かれたと思われる子猫がうずくまっていました。それがトムくんです。一目見てもう死んでいると思った中村さんは供養してあげようとしたところ、わずかに息をしている事に気づいたそうです。すぐにでも消えてしまいそうなほど弱々しい呼吸をするトムくん。素人目にもとても助からないだろうと思える状態だったそうですが、夜間病院に連れて行き、なんとか息を吹き返したそうです。

中村さんに出会えた事で救われたトムくん。横顔もすてきです。
中村さんに出会えた事で救われたトムくん。横顔もすてきです。

一命を取り留めたとは言え危険な状態であるトムくんを引き取り、世話をすると決意した中村さん。もともとペット不可の家だったのですが、大家さんに事情を説明。話を聞いてトムくんを見た大家さんは「こんな姿みたらダメなんて言えないよ」と飼育する許可をくれたのです。嬉しかった反面「初めて猫を迎え入れるため、ちゃんと育てられるのかプレッシャーも大きかった」と当時を振り返る中村さん。

こうして中村さんとトムくんの生活が始まります。家とお店でのお世話は大変だったそうですが、常連のお客さんもトムくんのお世話を手伝ってくれて、多くの人たちの愛情を受けてトムくんは元気になっていきます。

命の危機を乗り越えて今はこんなに幸せそうです。
命の危機を乗り越えて今はこんなに幸せそうです。

再度病院に連れて行ったところ、生まれつきの腎臓の病気が発覚。目や耳もあまり良くないらしく、お医者さんによると元々体の弱かったトムくんを母猫が育児放棄した可能性があり、そこで事故に遭ってしまったのではないかとのこと。

母猫には捨てられてしまったけど、保護して世話をしてくれた中村さん、飼育の許可をくれた大家さん、お店で一緒に世話をしてくれたお客さんと、たくさんの人の優しさを受けて育った奇跡の看板猫トムくん。今ではトムくん目当てにお店にくる人もいるほどの人気者です。

仕込み中の中村さんをみつめるトムくん。強い絆を感じますね。
仕込み中の中村さんをみつめるトムくん。強い絆を感じますね。

実はトムくん、取材時の少し前にも体調を崩して入院していたそうです。

退院後も脱水症状を起こし、体重や体温が下がってしまい再び命の危機が訪れてしまったトムくん。お店を閉めてつきっきりの看病をしたおかげでようやく元気になったとのこと。

看病している時は眠ることも出来ず本当に大変だったけど、元気になってくれて幸せだと語る中村さん。二度も命の危機を乗り越えたトムくんも5歳を過ぎました。最初に命を救った時、医者からは4年生きればいいと告げられていたそうです。

見事に余命宣告をぶち破りましたね。

つい最近まで体調不良だったとは思えないほど毛艶のいいトムくん。しかも4本全ての足先と首回りが白く、まるでソックス+マフラーをしたような姿です。
つい最近まで体調不良だったとは思えないほど毛艶のいいトムくん。しかも4本全ての足先と首回りが白く、まるでソックス+マフラーをしたような姿です。

トムくんが広げてくれたお客さんの輪

2022年で14年目を迎える『SUIREN』はトムくんが来てからさらにお客さんの輪が広がったようです。壁には、お店のSNS(@suirenswing)のフォロワーさんが描いたトムくんのイラストが飾られています。

リアルですね〜。
リアルですね〜。

さらにお店のホームページ(http://suiren0377.net)はお客さんで来ていたデザイン学校の生徒さんが卒業制作で作ったもの。

看板猫のトムくんがたくさんの人たちを招いてくれているんですね。

話を聞いているうちにいつの間にかどこかへ行ってしまったトムくん。

あれ?と思っていると、「ここにいますよ」と中村さん。

レジ横の寝床でくつろいでいました。

ふかふかの座布団が気持ちよさそうです。

一番人気は数量限定オムライス

さて取材をしている中でも料理の仕込みを続ける中村さん。美味しそうな匂いが漂っている中続々と料理が出来上がっていきます。様々なメニューの中でも一番人気はオムライス。

仕込み途中のソースを見せてもらいました。

ケチャップ二本とその他の材料を入れて水分を飛ばすために3時間煮込むとの事。

水分が飛んで味が凝縮した状態でライスと合わせるとパラパラなオムライスになそうです。

想像するだけでよだれが出ます。

これで9人前しか作れないようなので貴重ですね。いつも争奪戦になるそうですよ。

お店に行ったら是非食べたい一品です。

 

サクッと取材するつもりがついつい話し込んでしまいました。今までにない壮絶なストーリーだったので、無理もないですね。

トムくんに会いたい方は猫好きな人が集まる駒沢のSUIRENまで足を運んでください。中村さんとのお話もきっと楽しいですよ。

私は家が近所なので次はプライベートでトムくんと中村さんに会いに行きます。

もちろんオムライスも食べるつもりです。

住所:東京都世田谷区上馬4-7-9 クレールメゾン102/営業時間:17:30~24:00 ※コロナウィルスの感染状況により変更される場合があります。/定休日:不定/アクセス:東急電鉄田園都市線駒沢大学駅より徒歩3分

写真・文=湯沢祐介

今回訪れた看板猫のいるお店は千葉県船橋市にある『伊東屋』。京成船橋駅から歩いて3分ほどにあるお花屋さんです。創業は昭和10年(1935)という老舗花屋にいる看板猫はどんな子なのかと期待に胸を膨らませて歩いているとすぐにお店に到着。
看板猫のいるお店を探して、今回訪れたのは強羅駅から徒歩数十秒に位置するおみやげ屋さん。ここにも看板猫がいるらしいのだが、果たして姿を見せてくれるのでしょうか。 取材当時はまだまだ寒い2月下旬。午前中に別の撮影を済ませてからの取材だったので着いたのは13時過ぎ。平日ということもあって駅前でも人影はまばら。と言うよりもほとんど人がいないと言ってもいい状態です。