息子さんが考えたたまごやきサンド
『ブルク』の創業は1951年。老舗らしく玉子サンドやカレーパンなど、昔ながらのパンがズラリと並んでいる。のだが、中にはたまごやきサンド250円(トップ画像)という攻めたパンもあって、ちょっと驚かされる。
これは卵2個を使った厚焼き玉子を、大胆に挟んだもの。関西では分厚い玉子焼きを食パンで挟んだサンドイッチがあるが、これはそのアレンジバージョンか? かぶりつくとジュワッとほの甘いダシ汁が滲み出て、なんとも不思議なおいしさ。パンには辛子マーガリンが塗られていて、さりげない酸味が甘みを引き締めてくれる。なんだかクセになるおいしさなのだ。
このたまごやきサンドを考案したのが、現店主、3代目の吉住栄治さんの息子さん。実は関西の玉子サンドを知らずに、これを作ったのだとか。2年ほど前から作っているパンで、今では根強いファンがいるそうだ。
創業当時の周囲は畑ばかり
吉住栄治さん夫婦と息子さんで切り盛りしている『ブルク』は、創業当初から家族や親族が協力して店をやってきた。もともとベーカリーを始めたのは、栄治さんのおじいさん。尾久にあったベーカリーで働いた後、現在の地、善福寺で「キムラヤパン店」として独立開業した。
駅から離れていることもあり、当時の善福寺は畑ばかり。店ではほとんど売れないため、食料品店など、ほかの商店にパンを卸していたという。
店内に飾ってある、トラックの前で撮った写真が60年ほど前のもの。写っているのは栄治さんのお母さんと叔母さん。初代のおじいさんの息子さんが3人、さらに叔父さんや叔母さんなど、親族みんなで店をやっていたようで、栄治さんいわく「家には人がいっぱいいました」とのこと。
時を経て、栄治さんも店を手伝うようになる。しかし、それまで配達していた食料品店は、だんだんと数を減らしていった。その一方で、店の周辺は住宅地が開発され、住民が増加。商売は卸から店舗販売へとシフトしていく。今もお客さんは近隣の住民で、平日よりも土日のほうがはるかに売上が良いという。「休みの日のごはんは、あそこのパンで」というという付き合い方。なんだかすごく「善福寺」らしい。
少しずつ変わっていく『ブルク』
規模の縮小に合わせ店で働く人も減ったが、そこで支えたのが栄治さんの奥さんだ。『ブルク』ではラスクを始め、焼き菓子が多く売られているが、これは奥さんの担当。作り方は独学で学んでいったそうで、栄治さんは「私は焼くだけ」なんだそうだ。
長い歴史のある『ブルク』だが、パンは少しずつ変わっている。たとえばカレーパン140円。カレーパン自体は昔からあるメニューだが、最近になって息子さんがフィリングをリニューアルしている。現在のフィリングはほんのりと甘みのある、優しいタイプ。肉はカレー用のものがカットされて入っていて、味わいは優しいものながら、しっかり食べごたえがある。
他のパンも少しずつ変えているのだが、一方で基本のパン、食パンやたまごサンド、ポテトサラダサンド、ハムサラダサンドは大事にしていきたいと栄治さんはいう。目を引く存在ではないが、「とりあえず」とみんなが買っていく定番商品。そのおいしさがしっかりキープされているからこそお客さんは通ってくれるし、新商品も際立つことになるのだろう。
栄治さんによると「自分は新しいものを作るのは得意でないけれど、あいつ(息子さん)はそういうのが好きなんですよ」とのこと。栄治さんが守り、息子さんが変えていく。昔がそうだったように、『ブルク』の歴史は家族によってつながれていくことになりそうだ。
取材・撮影・文=本橋隆司(東京ソバット団)