祖国ガーナから来日、どうしても日本でイタリアンシェフになりたかった。
国分寺駅北口から徒歩5分、裏路地には緑で茂ったテラスが見える。扉を開けると「いらっしゃい〜」と陽気に迎えてくれるのは、オーナーの古河サミエルさん。ガーナ生まれの料理人だ。
とっても明るく朗らかで、日本語も堪能。それもそのはず、日本に来て約20年とその暦は長い。祖国ガーナでイタリアンの勉強をして来日。来日直後は日本語が全く話せなかったというが信じられない。今ではジョークの一つも飛ばすくらいだというのに!
日本語学校に通い、言葉を習得した後に働いたのは、青山のエスニック店と代官山の和食店だった。その後フレンチ、イタリアンと着々と経験を積み、最終的にイタリアンをもっと極めたい!と志したサミエルさん。そんな彼の前に立ちはだかったのは「日本人ではないから社員として雇えない」という厚い壁だった。
「今は日本でも外国人が多いから当たり前になった。けれど当時は、ガーナ人ってだけでダメだった。悔しかったですね」と振り返る。
“日本という場所でガーナ人がわざわざイタリアンを作る”ということも珍しかったのだろう。
「料理で一番面白いと思ったのがイタリアンだった。祖国ガーナでイタリアンシェフでもよかったんだけど、日本が好きだったんですよね」
それでもサミエルさんは諦めない。探しに探してたどり着いたのは「自分がオーナーとして店を開くこと」だった。とんでもない決断である。それほどまでに彼の情熱はたぎっていたのだ。
「開店資金は自分で貯めていたお金でまかなった。お金を借りるのも外国人だと簡単には借りれないしね」
聞くだけでもう涙ぐましい努力……。当時の日本がすみません、と代わりに謝りたくなる。
「だって料理は自信があったんです。絶対に来る人に満足してもらえる、美味しくてコストパフォーマンスの良い料理をみんなに食べて欲しかった。ただそのためです」
色鮮やかな野菜が中心のメニュー、その数80種類以上。オーダーメイドできる楽しみも
シレーナの特徴をサミエルさんは「野菜がたっぷりで素材を大切にしたメニュー」と話す。
メインメニューは麺や粉、炭水化物は控えめに、その倍以上の彩り良い野菜を添える。味付けは塩胡椒、オイルのみ。シンプルにすることで野菜の甘味が深まるからだ。
「化学調味料が苦手なのです。自分で食べて“美味しいな“と感じる味付けにしています。あとはお酒を飲む人、飲まない人に合わせて味の濃度も調整していますよ」
ランチはセットメニューでの提供。サラダかスープに、パスタかピザを選び、自家製パン、ドルチェ、飲み物まで含めて1500円(選ぶメインによって追加料金あり)。ボリュームも値段も圧巻だ。
特にパスタには注目だ。生麺には季節の素材が練り込まれていて、味はもちろん色合いも美しい。
この日の平麺は、カカオの練り込まれたダークブラウンのパスタだ。柔らかに煮込まれたラム肉と、ピリッとスパイシーな胡椒、甘味たっぷりの野菜の組み合わせが最高に味わい深い。
「チョコレートが美味しい冬の季節だから、カカオを練り込んでます。このほんのり甘い味が野菜とよく合いますよ。春に向けては桜の麺、夏に向けては野菜の麺などに変わるのでお楽しみに」
夜にはコース料理はもちろん、豊富なアラカルト、メイン料理などが80種類以上も揃う。
「私が必ず心掛けているのは、お客さまに嫌いな食べ物がないかということと、アレルギーがあるかどうかを尋ねること。来てもらったからには美味しく楽しんでもらいたいから。もちろんリクエストメニューにも応えます。その日ある材料で、できる限りのことは尽くすのです」
サミエルさんはとにかく情熱的だ。料理へのこだわり、接客へのこだわり、店作りのこだわり、追求する美学がある。
「訪れる人は本当に皆いい人ばかり。ここに訪れるお客さんに私は支えられているし、感謝している。来てくれたからには必ず満足してもらえるように、これからも頑張るのが私の仕事ですね」
取材・文・撮影=永見薫