ロックだけでなく、ロールをすることの重要性

話をハウンドドッグに戻す。翌年、ハウンドドッグは駄曲揃いの2枚組『VOICE』をリリース、武道館15DAYSを強行する。さすがにみんな付いていけなくなってきた。15日のうち半数はガラガラだったと聞く。あとは奈落の底に落ちていくように人気が急降下していった。それもあるのか、2006年あたりにメンバーと揉めて、そのメンバーが大友から送られてきた解雇通知メールを「フライデー」に公開した。現在のオリメンはボーカルの大友康平のみ。

ほぼ同じ時期に亀田三兄弟の次男、亀田大毅が試合で勝った後に、「ff」と並び立つぐらいヒットした「ONLY LOVE」を歌うパフォーマンスを披露するも再評価にはまったく結び付かなかった。

全盛期時代の名曲「バッドボーイブルース」の歌詞にこうある。

“噂じゃ俺もここまで あいつは背を向け言った 昔のアンタは光ってた“

自分が書いた歌詞が年月を経て自分にかえってくる恐怖。森高千里の「私がオバさんになっても」みたいな明るさと確信犯とは違う。

いまハウンドドッグのウィキペディアを覗いたら、バンドに必須のストーリー性の記述も少なく、思いっきり簡略化されたものだった。テキストの半分は解散騒動にまつわるもので大切なことは書かれてない。まるで何事もなかったかのように、数字だけの「10days」があるだけ。あの頃ハウンドドッグのライブ会場で、みんなが拳を振り上げたことなどなかったかのように。

こういうとき、思わざるを得ない。「人」の「気」と書いて、「人気」って何だろう。ブレイクするのは大変だが、人気の維持はもっと難しい。ミュージシャンではないけれど、自分も人気稼業に就くようになってそれがいかに過酷なことかわかるようになった。

テレビのバラエティ番組でたまに大友康平を見かけるが、あの頃の面影はない。ハウンドドッグが所属していた事務所MOTHERの公式サイトは閉鎖されたままだ。

でもね、人生の一時期にあれだけ人気がある日々を送れたことは幸せではないだろうか。武道館に一度も立てずに解散するロックバンドのほうがずっと多いのだから。武道館15日なんて途方もない記録はいまだに破られていない。日テレプラスの特別番組「ハウンドドッグ40thアニバーサリーライブ2020」を見ていたら、大友康平が黄金時代と比べたら決して多いとは言えない観客を前に、全力で歌っていた。精いっぱいシャウトしていた。ロックだけでなく、ロールをすることの重要性がそこにあった。こんな気持ちもこの歳になってわかってきた、ようやく。

あんなに汗臭いのと暑苦しいバンドは今いない。いつかハウンドドッグがオリメンでリユニオンして、再評価される日が来ることを願う。

文=樋口毅宏 イラスト=サカモトトシカズ
『散歩の達人』2020年7月号より