SNS映えするインパクト!太っちょのマカロン、トゥンカロン
『The Sugar Forest』は高円寺南口のパル商店街に並行した、古着店が並ぶ路地に面している。2019年5月にオープンして間も無く、行列のできる店として話題に。SNSはもちろん、多くのメディアにも取り上げられてきた。
店内に置かれたガラスケースには、パステルカラーのトゥンカロンがいくつも並んでいる。トゥンカロンとは、韓国語で「太っちょ」といった意味の「トゥントゥンハン」とフランスの「マカロン」を組み合わせた太っちょマカロンという意味。フランス菓子のマカロンよりは大きめで、クリームがたっぷり挟まっているのが特徴だ。ただし、フランスのマカロンを、ただ大きくしたというわけではないそうだ。
「もともと韓国人は甘いものはそれほど好きではありません。韓国に日本でも有名なフランスのマカロン屋さんが出店したこともありましたが、韓国人には甘すぎで、お店がなくなってしまったこともあったんです」
そう話すのは、韓国・釜山出身のパティシエ、金仁子(キム・インジャ)さん。金さんは韓国で10年ほどパティシエとして働いた後、日本で改めてお菓子を学びたいと来日。東京の製菓専門学校で学び、現在『The Sweet Forest』の店長を務めている。
金さんによれば、韓国でトゥンカロンが流行し始めた2017年ごろのこと。フランスと同じ味では受け入れられなかったマカロンを、韓国人の味や食感の好みに合わせてアレンジしたら、かわいさも相まって人気が出たというのだ。
トゥンカロンの特徴は、太っちょ、つまりボリュームがいちばんに挙げられるが、それだけではない。全体の甘さは控えめであること。フランスのマカロン生地がカリッとした食感なのに対して、サクッと柔らかい歯応えになっていること。中に挟まれたクリームはたっぷりのバタークリームがメインであること。さらに、クリームを挟んでから時間を置いて、クリームの水分と脂肪分をマカロン生地に吸わせていることなど、フランス菓子のマカロンとは随分と違う点がある。ちなみに『The Sugar Forest』のトゥンカロンは、組み立ててから12時間は寝かせているそうだ。
かわいらしい色合いやデコレーションばかりがSNSを中心に注目されているが、実は韓国人の味覚に合わせた、いわばローカライズが施されたことが人気の背景だったようだ。
甘さが控えめだから、幅広い年代にも楽しんで欲しい
韓国カルチャーが日本でも注目を浴びるようになったのと並行して、トゥンカロンは日本でも若い世代が注目するスイーツとなった。ボリュームのあるトゥンカロンが、フランス菓子のマカロンと同じレベルの甘さだったら、日本でもここまで人気にはなったかどうかはわからない。
『The Sugar Forest』には、常時8種類ほどのトゥンカロンが並べられている。全て金さんが朝7時からひとつひとつ手作りしている。一部のトゥンカロンに挟み込まれているジャムも自家製だ。
自信作のひとつは、モンブラン。マロンクリームの中に予想より大きな栗が隠れていて食感と味が楽しめる。栗の甘みが強いので、甘さを控えたというクリームは、食べ応えのある固さに仕上がっている。
いちごをまるごと一粒挟み込んだいちごヨーグルトも、赤い生地と黄色のクリーム、そしていちごのカラーコンビネーションがインパクトがある。ほのかに酸味を感じるヨーグルトのクリームは、フレッシュないちごの甘酸っぱさとも相性がいい。
韓国の流行をいち早く日本に取り入れる震源地に
韓国でもパティシエとして活躍していた金さん。韓国と日本の違いで、なかなか苦労したことがあるという。それは湿度が高い日本の夏だ。卵白とアーモンドパウダーを主な原料とするマカロンは湿気に弱い。湿度の高い日本では思ったような仕上がりにならないことも多かった。一方、日本でお菓子作りをするメリットは、製菓材料の品質が良く、バラエティも豊富なこと。「おいしいものを売りたいんです」と日本で手に入る材料を吟味して使っている。かわいさと味が評判となって、若い女性のグループやカップルだけでなく、家族連れもトゥンカロンを食べにやってくる。もちろんテイクアウトも可能だ。
店内は、木の温かみがあるシンプルなインテリアだが、1階にも2階にもあるネオンサインに注目してほしい。実はこれは韓国で今流行しているのだとか。「フォトスポットとして、写真を撮るんですよ」とのこと。
韓国ではトゥンカロンに続いて、凝ったデザインの焼き菓子にも人気が集まっていることから、近々焼き菓子もメニューに取り入れたいとも話してくれた。旅行が難しい中、韓国スイーツやカフェのトレンドを日本に紹介することに積極的だ。
韓国カルチャーの勢いは、まだまだ衰えそうにない。2022年は『The Sugar Forest』を震源地として、ポップなネオンサインの前でかわいい焼き菓子の写真を撮って、SNSに投稿することが日本でも流行していくのかもしれない。
取材・撮影・文=野崎さおり