なぜだか、ゆっくりとした空気感に包まれるカレー屋さん

ビル入り口にある『TADA CURRY』の看板。手が指し示す先にお店のドアがある。
ビル入り口にある『TADA CURRY』の看板。手が指し示す先にお店のドアがある。

木で統一された温もりのあるやさしい雰囲気の店内は、カウンターに8つの椅子が並ぶ。隣あう席は、狭すぎず広すぎずの絶妙の間隔だ。切り盛りするご主人と奥さんが厨房の中で息の合った仕事をしている。お店の中に流れるなぜだかゆっくりとした空気感のためか、窓の外の街の様子もどこかのんびりとして見える。初めてなのに、なじみの店に来たような気持になる。

大きな窓がある明るい店内。カウンター前には、それぞれのカレーの説明が丁寧に書かれた手書きのメニューが貼られている。
大きな窓がある明るい店内。カウンター前には、それぞれのカレーの説明が丁寧に書かれた手書きのメニューが貼られている。

やさしく心地いい声で迎え入れてくれる店主ご夫妻

店主の文則さんと敬子さんの多田ご夫妻。
店主の文則さんと敬子さんの多田ご夫妻。

もともとは中目黒で別々のカレー屋さんをしていたという多田ご夫妻。一緒にお店をするようになって2021年で9年、目黒に移ってきて7年になるという。東日本大震災でビルが傾き、立ち退きになったのをきっかけに、ここに移ったのだそうだ。

カウンターから覗く厨房は、どこもピカピカに磨かれている。
カウンターから覗く厨房は、どこもピカピカに磨かれている。

ご主人の文則さんは、目黒生まれの目黒育ちの地元民。「自宅から自転車で通える距離」と笑う。ランチのみの営業のため、お客さんは周辺のオフィスに勤めている人が多いというが、若い人よりも年配の人が多く、常連さんには地元のおじいちゃんおばあちゃんも。「今はやりのスパイスカレーという感じじゃないからね」とご夫妻。目黒という土地について尋ねると、「目黒は下町っぽい。奥の方にいくとぜんぜん下町ですよ」と人々がこの街に抱くイメージとは違う、意外な答えが返ってきた。

たっぷりの野菜とスパイスをじっくり炒めて作る、芸術的に美しい3層のキーマカレー

見よ、この層の美しさ。キーマカレー(3種の豆入り)1000円、トッピングの目玉焼き100円。
見よ、この層の美しさ。キーマカレー(3種の豆入り)1000円、トッピングの目玉焼き100円。

『TADA CURRY』のキーマカレーは、豚ひき肉、玉ねぎ、セロリ、ニンジン、トマト、リンゴ、ショウガ、ニンニクとスパイスとスープを煮込んで、仕上げにタマリンドで酸味を加え、ひよこ豆、ダール豆、レンズ豆の3種類を使う。口に含むと、野菜の甘みと豆の豊かな風味が広がり、大きさの違う3種の豆の食感がアクセントとなり、さらに味に深みを与えている。確かにスパイシーというよりは、どこか懐かしい味という感じだが、あとでしっかりと辛みもやってくる。

つついた瞬間にトロリと流れる黄身の滝。目にもおいし過ぎる!
つついた瞬間にトロリと流れる黄身の滝。目にもおいし過ぎる!

「スープを入れて、お肉と一緒に野菜をガーっと炒めて水分飛ばしてできあがり。スープを飛ばすだけでも30~40分ぐらいはずっと炒めてますね」と文則さん。ちなみに、スープは大山鶏と魚介系の2種類を使い出汁をとっている。魚介系は珍しいのでは?  と思い聞くと「そんなことはないですよ。スリランカとか、魚で出汁をとるところは多いんです」と敬子さん。丁寧に炒めた野菜とこだわりの出汁が生む滋味豊かなキーマカレー。リピートせずにはいられない理由だ。

最近、メニューをリニューアルして2種のカレーがいっぺんに食べられるハーフ&ハーフ(チキンカレー+キーマカレー1100円、チキンカレー+グリーンカレー1200円)と、3つ全部食べられるトリプル(チキンカレー+キーマカレー+タイ風海老のグリーンカレー1700円)が加わった。ハーフ&ハーフは、好評だというが、トリプルを注文したのは「まだ若い女性1人だけ」と文則さんは笑う。

1皿でいろいろ楽しむのも、もちろんいい。だけど、1つずつコンプリートする楽しみも格別だ。何回でも通いたい、そんなお店だから。

住所:東京都目黒区目黒1-6-16 サンライズマンション本田ビル1F/営業時間:11:30~14:30LO/定休日:土・日・祝(不定休)/アクセス:JR・地下鉄目黒駅から徒歩5分

取材・文・撮影=京澤洋子(アート・サプライ)