10時間ほぼ絶え間なく煮込む濃厚な豚骨スープと特製味噌ダレの豚骨味噌ラーメン
オープンしたのは2013年。看板メニューは味玉豚骨みそラーメンだ。スープは豚のゲンコツ、カシラ、そして鶏のモミジを、骨を叩き割るようにしながら、ほぼつきっきりで10時間煮込んでいる。
だから濃度が高く、コラーゲンもたっぷり溶け出した、どろっとした食感のスープが出来上がる。加えて、豚骨の臭みが出すぎないよう、スープの煮込み方には気を遣っている。
そのスープには、信州味噌を中心にした4種類の味噌と、厳選した15種類もの素材を合わせた味噌ダレ合わせている。はっきりと濃い味わいだが、油を加えていないので、重さはそれほど感じない。
麺はスープが絡みやすいように特注している中太麺。国産小麦を使っていて、香りもよくもちもちした食感だ。チャーシューは、豚バラを煮込んで、醤油ダレに漬け込んで提供前に片面だけ炙って香ばしく仕上げている。「スープの味が濃い分、チャーシューはあっさりしています。スープにディップして食べていただく感じです」と話すのは店主の千代田英司さんだ。
千代田さんは長野県出身だが、18歳のときから、もう30年近く高円寺に住んでいる。仕事も13年前に高円寺に開いたカラオケ店を皮切りに、現在は4店の飲食店を経営し、ラーメン店は『豚骨味噌ラーメン じゃぐら』だけ。つまり初めて手がけたラーメン店だ。
ラーメン屋を始めた理由を聞くと、「経営者仲間にラーメン屋さんがたくさんいたんですよ。有名なラーメン屋さんもあって、いつかチャンスがあればやってみたいと思っていました」と答えてくれた。ラーメン店としては先輩に当たる高円寺の経営者仲間からは、仕入れ先を紹介してもらったり、ラーメンにまつわるアドバイスをもらったりと、助かったというが、同時に意気込みも増したようだ。「変なラーメンになったらせっかくいろいろ教えてくれた仲間にも恥をかかせちゃうから」と熱意のなかに実直さをのぞかせる。
心意気が現れる無料のライスはひとめぼれ。安くお腹いっぱいに。
高円寺といえば夢にチャレンジしている若者が住む場所としてもよく知られる。「バンドマンとか、役者の卵とか、お笑い芸人さんとかね。そういう人たちも含めて、地元の方々のお腹を少しでも安い値段で満たしたいという気持ちがありました」と地元愛も感じさせてくれる。
ライスは無料。「無料でもおいしい方がいいから」と、米はブランド米ひとめぼれを使っている。もちろん、ラーメンのスープとの相性もいい。さらにカウンターにカレー粉を置いていて、スープと混ぜた上で、ライスにかけるのが店のおすすめだ。
「レンゲの上にスープをとって、そこにカレー粉を加えて溶いて、ライスにかけてみてください」
言われた通りにやってみると、粘度のある豚骨と味噌のスープにカレー粉のスパイスが混ざり合って、とろっとした風味もいいソースが出来上がり食が進む。男性はもちろんだが、来る度にライスを頼んでは、豚骨味噌のスープとカレー粉との組み合わせを楽しんでいく女性の常連客もいるという。
カウンターにはもうひとつ、生姜漬けが入った入れ物が置かれている。生姜はごろっと大きめの角切りになっているが、濃いスープの合間に箸休めのように食べるのもいい。
「チャーシューの臭み消しに使う生姜なんです。初めは捨てていたんだけど、もったいないからチャーシューと一緒に醤油だれにつけてみたら、これがとてもおいしかった。それでお客さんにも食べてもらうことにしたんです」と、意図せずに流行りのアップサイクルになっている。
生姜独特の辛味は抜けているが、しゃくしゃくとした歯応えもある。漬物のようでラーメンにもライスにも合うので、スープに加えてもいいし、ライスのアテにもちょうどいい。「生姜漬けだけでも売れそうですね」と思わず声をかけてしまったほどだ。
家族連れも入りやすいラーメン店として、いつか思い出の味になりたい
『じゃぐら高円寺』は看板メニューの豚骨味噌のほか、辛いもの好きのために作ったファイヤーじゃぐら900円、豚骨が苦手な人に用意した背脂生姜味噌880 円、さらにはカレーライスなど、バラエティに飛んだメニューを用意している。特にカレーは高円寺のカレーイベントで優勝するほどの評判だ。
「子どもの頃、土曜の昼に親と外食して食べたチャーシューメンが、ものすごく美味しかった記憶があります。僕が子どもの頃の中華屋さんだから、特別なことをしていたとは思えない。でもあの味にはやっぱり勝てないと思います。うちはテーブル席もあるし、ベビーカーもOKにしているのは、いつかあのラーメンがおいしかったなと思い出してもらえる食事を提供したいと思っているから」
オープンして8年が経ち、近隣に住む常連客の中には、オープンの頃に家族で食事に来ていた小学生が、大学生になって友人を連れてきたり、カップルが結婚したと報告してくれたり、さらには子供と一緒に食べにきたりする姿が見られるようになったと千代田さんは嬉しそうにしていた。
高円寺で独立して10年経った頃から、助けてもらった人たちや街への恩返しをして、地元を盛り上げていきたいと千代田さんは考えている。地元の人たちに愛される『じゃぐら高円寺』のラーメンと店づくりには、店主の熱い思いが溶け込んでいるようだ。
取材・撮影・文=野崎さおり