1階のみの営業となった時、エスカレーターは……
私が子どもの頃、確かスーパーOでは1階で食料品、2階で日用品を売っていた。しかし長い年月を経て幾度か業態が変わり、現在はディスカウントストアとして営業を続けている。フロアも1階のみになったり、また2階売場が再開したりとさまざまであった。
このスーパーOが1階のみの営業となった際、設置されていたエスカレーターはそのままに残され、仮囲いが施されていたように記憶している。この囲いの向こうに動かないエスカレーターがあるのだ……と思うと、何となく胸がざわついた(なお、現在は2階売場があるため、エスカレーターは復活している)。動いていて当然のものが動いていない、その違和感にドキドキした。
元エスカレーターと階段は別物だ
エスカレーターが動いていないだけでも違和感を覚えるのに、それが無理やり階段にさせられてしまっているのを見た時、人は少なからず当惑する。例えば新宿のドラッグストアD。故障なのか、老朽化なのかはわからないが、十数年前にエスカレーターは止まってしまった。このエスカレーターが階段のように使われ始めた頃から、私はたびたびこの店を訪れてはその推移を見守っていた。
当初は本当にエスカレーターが止まっているだけという感じで、そこを階段のように上っていくのはとても違和感があった。脳内で動いていると思い込んでいるものが止まっている際に生じる違和感を「エスカレーター効果」という、という話をどこかで聞いたことがあるが、まさしくその通りである。エスカレーターの段差は通常の階段よりも高いため、足が上げづらいというのも違和感の原因の一つだ。
元エスカレーターの「エスカレーター感」はあの手この手で隠される
こうした違和感を払拭するためか、店側では両脇に商品を山積みにしたり、段差部分に案内表示を貼ったりするなどして、「エスカレーター感」を無くすことにつとめてきた。現在では、「MITSUBISHI」の刻印がある床板と、手すり下の内側板のパネルが光っていること以外は、エスカレーターを思わせる要素はなくなっている。
エスカレーターから階段、そして飾り棚へと、さらなる進化を遂げたものもある。伊勢原のAショッピングセンターでは、正面入り口を入るとすぐに、3段ばかり残された元エスカレーターを発見できる。床材の感じからして、恐らく階段として使用されていた時期もあったに違いない。2階フロアの営業がなくなり、この階段が閉じられた結果、今では大きな紅白のバラの造花が飾られる棚になっている。
動かないエスカレーターは魅力的だ
元エスカレーターがこのように加工されるのには、撤去費用が高くつくなどの様々な理由があると考えられる。エスカレーターの製造元側からしてみれば、あまり推奨できるものではないだろうが、見るこちらとしては、店側の創意工夫と生活感あふれるたくましさを感じることができ、ほほえましくもなる。
もしかするとスーパーOのように、再びエスカレーターとして復活することがあるかも知れないという期待感もある。味わい深い元エスカレーターを探しに、日本全国を旅してみたいものだ。
絵・写真・文=オギリマサホ