「八十八夜」をテーマにした吉祥寺のカフェ&ダイニング
吉祥寺駅から井の頭公園方向に歩くこと3分。ビルのはざまにある階段の先にカフェ・ダイニングレストラン『八十八夜』がある。2009年にオープンした同店はこの場所でおよそ12年もの間、地元住人に愛され続けている。
テーブル席やカウンターがある店内は、席同士の感覚がゆったりと取られていて居心地がいい。一人での食事から仲間との集まりまで幅広く対応している。長年この店でスタッフとして働き、昨年から店長となった長谷川さんにお店のことを伺ってみた。
2009年にオープンした『八十八夜』は、この店のオーナーが体調を崩したことを機に健康について考えるようになり「からだにやさしいごはんとおのみもの」というコンセプトの店をつくり出したのが始まり。そのため、料理やスイーツ、ドリンクに至るまで素材を生かした調理を心がけているのだそう。
店名の「八十八夜」は、立春から数えて88日目の5月2日~3日頃を指す、日本の暦による雑節のこと。特に茶摘みや農業の場では、昔から大切にされてきた日だ。そんな日本人の食生活に深く根付く「八十八夜」をテーマに、有機栽培のお茶や季節感を大切にしたメニューを揃えている。
季節を感じるクリームあんみつは、心をほぐす優しい甘さ
幅広いスイーツや料理を提供する同店で、定番の和スイーツがクリームあんみつだ。旬のフルーツに、寒天やわらび餅、黒糖の濃い風味を感じられるさとうきびアイスが、ほどよく満足感のある量で盛られている。
長谷川さんは「フルーツもそうですが、あんこも季節ごとに変えているんですよ」と教えてくれた。お茶のおいしい5月頃のシーズンには抹茶やほうじ茶を使ったあんこ、夏はレモンを使ったあんこなど、季節を感じられる風味のあんこを使う。そのため、同じあんみつでも季節によって味わいが大きく変わる。その変化を楽しみにしている常連さんも多いそうだ。
あんみつは、アイスを崩しながら食べるのがおすすめ。さとうきびアイスは黒糖のまろやかな甘さをふんわりと感じられ、フルーツやあんことよく合う。豆乳と抹茶で作られたわらび餅は、単品メニューでも人気。もちもちとした食感と和の味わいは、自然と「日本人でよかった」という気持ちにさせてくれる。
あんみつと一緒にいただいたのは、生姜がからだを温めてくれる自家製スパイスジンジャー。一流シェフのための青果店として知られる『築地御厨(みくりや)』から仕入れた生姜と、天然甘味料「アガベ」にピンクペッパーやカルダモンなど数種類のスパイスをブレンドして作った自家製シロップを加えた特製ドリンクだ。
ジンジャー+スパイスときたらさぞかし辛いだろうと覚悟して飲んでみると、ガツンとした生姜の辛さのあとから自家製シロップの優しい甘さが追ってきて飲みやすい。スライスした生姜とみじんぎりの生姜も贅沢に入っていて、まるで生姜を食べているような気になる。
天然甘味料「アガベ」は低GI値のため、血糖値を気にしている方にもいいのだそう。飲んだあとはからだが内側からぽかぽかと温まる感覚になり、これからの季節にはもってこいだ。アイスもあるので、夏はぐびぐびと飲み干したい。
夜は本格派のお酒や料理がラインナップ
また、『八十八夜』は夜になるとカフェから本格派の和食ダイニングへと表情を変える。メニューには、夜の時間帯しか味わえない料理が勢揃い。たとえば、野菜をタジン鍋で蒸したシンプルな蒸し野菜は、『築地御厨』の目利きの達人・内田悟氏が厳選した野菜の、本来の甘みや旨みを存分に感じられる。さらに、注文を受けてから土鍋で炊く、炊き込みご飯も自慢の一品だ。
料理と合わせて、お酒にもこだわりが詰まっている。川越のクラフトビール「COEDO(コエド)」が全種が楽しめるのは、都内でもなかなか珍しい。日本酒は常時3種類を揃え、季節によって銘柄が変わっていく。カフェ利用で訪れたなら、次はぜひ夜も足を運んでみてほしい。
「井の頭公園も近くにあるので、お散歩帰りに立ち寄っていただけたらうれしいです」と話す長谷川さんは、「お客様に満足してもらうこと」を一番に、日々店を営んでいるという。そのため、メニューはスタッフたちと協力しながらより良いものを追求しアップグレードしている。吉祥寺に訪れた際は、からだと心に栄養を与えてくれる料理や飲み物で、ほっと一息つこう。
取材・文・撮影=稲垣恵美