アジア地域で出合った品質のいい小規模農園のコーヒー豆を日本に
店主の河村拓さんがコーヒーに魅せられたのは大学院生だった24歳のとき。専攻していた文化人類学の研究のために訪れたフィリピンでのことだ。小さな農園で育てられたコーヒーを飲んで、そのおいしさに驚いたのだという。その後もアジアの国に訪れる機会があってその度に小さな農園が育てた高い品質のコーヒーに出合った。
アジア諸国の小さな農園で栽培されたコーヒーはまだあまり知っている人がいない。アジアで出合ったおいしいコーヒーをもっと紹介できないだろうか。そんな思いからコーヒーを扱うビジネスを始めることにした。
研究内容も含めて、フェアトレードやオーガニックには関心が高かった。店名の『ベルベットコネクション』には、コーヒーという人と人との繋がりを作る飲み物を介して、生産者と消費者の関係性を柔らかくやさしいものにしたいという意味を込めた。
『ベルベットコネクション』が扱うコーヒー豆は、農薬を使わないオーガニックなものが中心だ。揃えているのは、エチオピア、モカ、グアテマラ、スマトラ、コロンビアといった5つの生産地が定番で、季節ごとに仕入れる豆も含めると10カ国程度の豆を揃えている。
焙煎方法は半熱風式の焙煎機を使って、10分から13分ほどと比較的短時間に高温でしっかり熱を入れるようにしている。
焙煎は甘みとコク、香りの高さを意識
シングルオリジンのルワンダを飲んでみたが、ひと口目で驚いたのはその甘さだ。もちろん砂糖を入れたわけではない。「うちのコーヒーは糖度をしっかり残しています」と河村さんは話す。
もともとコーヒー豆には糖分が含まれているが、その甘味は焙煎する熱で分解されていく。しかし、その糖分をうまく残しているのが『ベルベットコネクション』が焙煎するコーヒーの特徴のひとつだ。甘み以外にも、香りよく、飲みやすくバランスが取れた焙煎を心がけている。
1階は生豆を置く棚があり、コーヒー豆が入った麻袋が並ぶ。カウンターの中には焙煎機も鎮座。奥の階段を上がった2階がカフェスペースになっていて、カフェとして利用する人と、コーヒー豆を買いに来る人は半々ほどとのこと。
ネット販売も含めて、『ベルベットコネクション』のコーヒー豆はリピーターが多く、近所の人は毎週のように店に通って豆を買っていく。フェアトレードでオーガニック、焙煎方法にもこだわりがあるとなると、なかなかの値段では?と思うが、販売している豆は100グラム600円から。
「毎日飲むのにちょうどいい値段で、品質が良くておいしいコーヒーを提供したい」と河村さん。レストランなど15件ほどに、卸し売りもしている。
カレーにはオリジナルのスパイス使いに秘密あり
コーヒー豆がきっかけで店を始めた河村さんだが、フードメニューもさりげなく自信を持っている。特にカレーは自身の好物で、こちらも研究の末の手作りだ。
いちばん人気はトマトの酸味が程よい豚バラのカレーは680円。夏にはゴーヤーを入れるなど、野菜は季節によって内容が変えるそうだが、見た目はシンプル。ホールで油に香りを移して使うスパイスの中には、花椒も使っている。
豚バラのカレーの他にはバターチキン、シンプルなスープカレータイプ、ほうれん草とチーズのカレーなども用意している。スイーツ類は姉妹店の『深大寺カフェ』から取り寄せていて、今後はフードメニューに力を入れていくとのことだ。
調布という土地柄から、カフェとして利用する人は週末が中心だった。2020年からのコロナ禍では、一時フードメニューを中断するなど苦しい状況が続いた。2021年11月からはカレー以外の新フードメニューも準備して、改めておいしいコーヒーと一緒に味わって欲しいとのこと。
おいしい1杯を飲むことが、生産者の生活向上にも影響するなら、ますますコーヒーを飲む時間を豊かにしてくれそうだ。
取材・撮影・文=野崎さおり