中国語が飛び交う上海料理の店
ここ数年、池袋西口(北)付近では日本にいながら本場の味わいが楽しめる中華料理店が続々と出店中。町中華ならぬ “ガチ中華”としてSNSなどでもにわかに注目を集めている。このエリアで2009年にオープンした『永祥生煎館』は池袋ガチ中華の中でも老舗の部類だろう。上海に住んでいたという常連客は「この店に来ると子どもの頃を思い出す」と顔をほころばせる。店のオーナーである徳永麗子さんに聞けば、今はお客さんの3分の1ほどが日本人だという。
籠で蒸す小籠包は日本でもおなじみだが、『永祥生煎館』では大鍋で焼きあげる焼小籠包が看板メニュー。多い日は1日4000個も売れるといい、池袋チャイナタウンの中でも大ヒットの商品だ。
アツアツの肉汁をすすってかぶりつけ! 豚のうま味がギュッと詰まったジューシーな焼小籠包
多くの客はテイクアウトをするが、店のカウンター席で食べることも可能。しかし、できたての焼小籠包をひとくちで口に放り込むと大変なことになるからご注意を。皮の中にはアッツアツのスープ(肉汁)がたっぷり入っているからだ。まずは焼小籠包をレンゲか小皿に1つ移し、箸で上辺の皮に穴をあける。そこから口をつけてスープをすすって飲み、お好みで黒酢と辣(ラー)油を少しかけてから食べよう。
皮の底はパリパリ、上辺はもちもちで食べ応え十分。ジューシーな豚肉のうま味とほのかに甘みのある脂があとをひき、もう1個、もう1個とどんどん頬張りたくなる。肉は秋田県産のブランド豚を使用し、ニラなどの野菜類も日本国産を使うのがこだわりだ。素材は日本産だが、中国の調理の国家資格である面点師(メンテンシ)が調理を担当する。
「『永祥生煎館』は上海料理の店。焼小籠包も上海の名物です」というオーナーの徳永さん。上海の人は焼小籠包は朝、昼、夜のご飯に、お酒のおつまみに、おやつにも食べるという。子どもにも高齢者にも愛されるソウルフードだ。
中国上海の味を安心して食べてもらいたい
『永祥生煎館』では日本では見かけない珍しい上海料理がたくさんそろっている。塩水鴨(イェンシュウヤ)もそのひとつだ。塩水鴨とは茹でたアヒルの肉を塩と山椒、酒に2~3日ほど漬けたもの。骨つきのアヒル肉はブリンと身が引き締まっているが、口に入れればホロっとやわらかな食感。クセもなく、肉のうま味に塩味がほどよく溶け込む。
日本でもよく見かける月餅(げっぺい)はシロップや油などを練り込んできつね色に焼いた皮に、あんこが入った甘いタイプ。だが、それは広東式の月餅だ。『永祥生煎館』では上海式の月餅である鮮肉月餅がおいてある。サクサクのパイのような皮に、味のついたひき肉が入っていて、ミートパイに近い。中国では旧暦の8月15日である中秋節の祝日に月餅を食べる習慣がある。その時期は『永祥生煎館』にも在日中国人が月餅を求めて大行列をつくる。
『永祥生煎館』で提供される品々は板橋の自社工場で作られ店に運び込まれている。長く日本で暮らすオーナーの徳永さんは自ら工場に足を運び、品質に厳しく目を光らせる。それは「中国上海の食文化を安心して楽しんでほしい」という思いがあるからだ。そして本物の味を忠実に守りつつ、日本人の味覚に合わせる工夫も忘れない。だから中国人には懐かしく、日本人には新しく映る店として人気を博している。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子