「番町」は重厚な邸宅やマンションが並ぶ高級住宅地
外堀の東、千代田区側には、将軍を警護する旗本たち「大番組」の武家屋敷が置かれていた。「番町」の地名(一番町から六番町まである)はその名残だ。
番町は古くから都心を代表する高級住宅街。「番町文人通り」には、島崎藤村や泉鏡花、有島武郎、与謝野晶子・鉄幹、藤田嗣治など、明治から昭和にかけて、多くの文学者が住み着いた。
駅近ながら非常に閑静な住環境で、今では重厚な構えのマンションが点在する。1978年築の「パレロワイヤル六番町」もそのひとつだ。
赤レンガ調のどっしりとした外観は、番町の街並みによくなじんでいるように見える。「エントランスを抜けるとロビーの赤カーペットに誘導されて、ゆったりとしたソファーがまるでホテルの待合室のよう」と石川さん。地下の出入口にシャッターゲートを設けた自走式駐車場を備え、セキュリティとプライバシーを確保している。
このあたりに住むと、四ツ谷駅へと向かう外濠公園の遊歩道が、ちょうどよい散歩道になるだろう。枝ぶりの豪快な桜や松はなかなかの迫力で、樹木と土の香りが都心にいることを忘れさせ、ほっと一息つく時間を与えてくれる。
交通量の多い麹町大通り(新宿通り)と番町文人通りの角地には、17階建ての「ザ・パークハウス千代田麹町」がそびえる。上層階は富士山を望むという高級マンション。「街の歴史に配慮しながら、新しいランドマークとなるよう、江戸時代の格子柄をデザインモチーフとし、現在にも通じるデザインにアレンジしています」。
商店や飲食店が比較的少ない番町界隈で、日常の憩いスポットとしてぜひ活用したいのが、バー、カフェ、ジェラテリアがひとつになった『TIGRATO』だ。
店主の高宮裕輔さんは、数々のコンペティションで受賞歴を持つトップバーテンダー。ともすれば「入りにくい」と思われがちなバーのイメージを一新し、バーテンダーの可能性を広げるべく、2018年にオープンした。
はじめてでも入りやすい明るい雰囲気ながら、カクテル、コーヒー、ジェラートのそれぞれがこだわり抜かれている。一流バーテンダーの舌と技術は、ジェラートづくりにもコーヒーにも、十二分に活かされているのだ。
新宿区側は庶民の街。近年ビジネス街としての表情も
JR四ツ谷駅の西、新宿区側は江戸城外堀の外。雰囲気はがらりと変わり、駅前には飲食店がひしめく通りが延びる。庶民派の店が並ぶなかで、食通たちが憧れる高級店も。このエリアに住めば、食べ歩きの楽しみには事欠かない。
まずは庶民派から紹介しよう。昭和の時代に屋台からスタートしたという『徒歩徒歩亭』だ。2021年春にリニューアルした店内は、最近よくあるラーメン店でも、昔ながらの町中華でもなく、ちょっとレトロな街の食堂といった趣。新しくできた店頭の小窓から、手作りの総菜も購入できる。
店主の西勝佐江さんが「圧倒的人気ナンバーワン」という雲呑麺は、四ツ谷住民ならぜひ味わいたい逸品。肉のうまみを凝縮した大ぶりのワンタンが3つ、ガツンと主張の強い豚骨スープに浸っている。「新鮮な食材を使い、作りたてで提供する」という素朴なこだわりが表現された一杯だ。
『北島亭』は奇をてらわず、王道を突き詰めるフレンチレストラン。グルメ誌などからの評価が高く、7割は舌の肥えた常連客という名店だ。
「フランス料理をつくるのも、食べるのも好き。好きなことをやっているだけ」と、シェフの北島素幸さんは微笑む。
店内は小さな街のビストロといった雰囲気で、肩肘張らずに過ごせそう。少々お値段は張るが、四ツ谷住民になったからには気楽に通い、季節の本格フレンチを味わいたい。
30階建てのオフィスビルには、LINEや朝日生命保険などの企業が本社を置き、四ツ谷は「ビジネスの街」としても存在感を放ちはじめている。
足元に広がる「コモレビの広場」では芝生に足を伸ばし、ちょっとしたピクニック気分を味わえるし、「コモレモール」で食品や日用品のショッピングも可能。住居ゾーンは、6階建ての「ザ・レジデンス四谷ガーデン」と7階建ての「ザ・レジデンス四谷アベニュー」からなる。
「住居は中規模ながら多彩なゾーンに分かれ、建物が一つの街を形成していると言ってよいでしょう。一般的なタワーマンションとは一線を画す希少なレジデンスです」と石川さん。古くからの住宅街や飲食街が多いこのエリアにあって、新しい都市と住まいの姿を感じさせる一角だ。
路地散歩が楽しい寺町には、あの映画に登場する「聖地」も
『コモレ四谷』の一角から新宿通りを渡り、須賀町を南へ進むと街は急激に下っていく。「4つの谷がある」という地名の由来が、歩いているとよく分かる。
このあたりは、江戸城の外堀ができた際、城内の寺社が移動してきたという寺町だ。小道や路地、古い住居が入り組んだ味のある風景で、大ヒット映画『君の名は。』のラストシーンでは、須賀神社の階段が描かれている。
「地形を活かした設計の良好な環境を持つマンションが多く見られます」と石川さん。「ウェリス四ツ谷」は、南傾斜の地形に立ち、岩壁をくり抜いたようにエントランスアプローチを設けている。「傾斜を活かした南向き中心の配棟計画で、室内に陽光と爽風を採り入れ、低層ながら広がる空と開放感に包まれた暮らしを追求しています」。
傍らには昔懐かしい佇まいの理髪店。タイムスリップしたような感覚が味わえる庶民の住宅地だ。
めまぐるしく風情の変わる四ツ谷散歩を満喫
さらに南へ進むと、広大な赤坂御用地に突き当たる。アスリートたちが熱戦を繰り広げた国立競技場もすぐそこだ。
ここへ来て、またまた街は表情を変える。一言で言えば、「セレブの街」の空気感が、ビシビシ伝わってくるのだ。
御用地に隣接する「ガーデンヒルズ四ツ谷迎賓の森」は、そんな街並みにふさわしい中層マンションだ。石川さんが「都市と御用地の自然の調和・共生を図るよう敷地内に緑を引き込み、スケール感・色彩・素材等を十分吟味して計画を行なっています。縦に仕切られた戸境のスレッド壁面と水平ルーバーが巧みな造形美を見せていますね」と評するように、一見して高級感があふれている。
こうして歩いてみると、マンションの佇まいが街を象徴していることを実感する。坂をのぼり、再び四ツ谷駅に近づくと、街は徐々に生活感を取り戻していく。
四ツ谷駅赤坂口から徒歩2分の『鈴傳』は、嘉永3年(1850年)創業の酒販店だ。全国の銘酒を取りそろえ、地下のカーブに温度の異なる3種類の冷蔵庫を設置して、品質管理を徹底。東京中のお酒好きや日本酒にこだわる飲食店から熱い支持を集めている。
飲食スペースの「スタンディングルーム鈴傳」は、古きよき風情を残す角打ちだ(緊急事態宣言発令中は休止)。地形も、街並みも、マンションも、ジェットコースターのような変化が楽しい四ツ谷散歩を、一杯飲みながら振り返るのも一興だ。