『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』

いまだからこそ必要な生活者のためのアイデアが満載

パリッコ 著/ スタンド・ブックス/ 1870円+税

度々発令される緊急事態宣言、長引く飲食店の営業自粛……。終わりの見えないコロナ禍にあって、酒場ライター・パリッコが向かったのは「スーパーマーケット」だった。
この本は、身近なスーパーやコンビニで買ったもので、どの食材がだしを一番吸うのか計測してみたり、焼き鳥とカップスープを組み合わせて「インスタント鍋」を作ってみたりなど、著者独自の着眼点から繰り広げられるレポート風エッセイがメインだ。しかし、これはレシピ本ではない。本著最大の魅力は、同じことの繰り返しのように思える毎日でも、ちょっとの工夫で日常は楽しくなるということに気づかせてくれる点にある。
個人的には、朝ごはんを1週間外食にしてみた話がお気に入りだ。たったそれだけで頭が整理され、気持ちに余裕ができたという。このように、決して特別なことでなくとも、ほんの少しの刺激で私たちの生活は大きく変えられるのだ。
この本全体のテーマとなっている「ノスタルジー(懐かしさ)」は、年季の入った店に行ったり、素朴な味わいに久しぶりに触れたり、といった即物的な話ではない。それは、毎日が驚きと発見に満ちていて、一日として同じような日はないと信じて疑わなかった、子供時代に抱いていた感覚のことだと思う。行動が制限され、食事すら宅配で済ましてしまう効率化に拍車のかかる現代で、ナンセンスなことに真剣に取り組んでみる。一見、チープで無駄に思えるあれこれにこそ、心を豊かにしてくれる秘訣が詰まっている。(高橋)

『東京マニアック博物館 おもしろ珍ミュージアム案内 新装改訂版』

町田忍 監修/ メイツ出版/ 1793円+税

東京にあるのは何も国立のでっかい博物館・美術館ばかりではない。小規模ながらも異彩を放つミュージアムを、庶民文化研究で知られる町田忍さんが紹介する。戦災資料からおもちゃまで、あらゆる分野の博物館が存在するのもまた東京の魅力と実感できる一冊だ。一番行ってみたくなったのは、新橋の『送水口博物館』。(吉岡)

『都会の異界 東京23区の島に暮らす』

高橋弘樹 著/ 産業編集センター/ 1650円+税

伊豆七島や小笠原諸島ではない、東京23区内の島を“都会の異界”として紹介。弊誌でも紹介するエリアもある一方、赤羽に島があったのか(北区中之島)とか、中央区にこんなにのんびりした島があったのか(中央区中の島)と、新しい発見も。それぞれ臨場感のあるルポで、知られざる東京をリアルに伝えてくれる。(土屋)

『鉄道歴史散歩 東京・関東編』

竹内正浩 著/ 宝島社/ 1100円+税

鉄道や駅の歴史書は数あるが、本書の東京駅の深堀り具合は群を抜く。東京中央郵便局へ通ずる地下軌道に噴水付きの大浴場、連合軍の秘密の部屋……!? 時代とともに変化を続けるダイナミックさ。その丹念な記述に驚きの連続だ。その他、新宿駅や関東近郊の駅も収録。ひとたび読めば、駅を訪れるのが楽しみになるはず。(町田)

『散歩の達人』2021年9月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。