『うろん紀行』

書を携えて街へ出る≪小説を読む物語≫

わかしょ文庫 著/ 代わりに読む人/ 2420円+税

「人はなぜ小説を書くのだろう。なぜ小説を読むのだろう。決して同じ場所にたどり着くことはできないのに。」そんな不安げな独白とともに、著者は街を訪ね、そして書く。
平和島在住の著者によるWeb連載を書籍化した本書は、笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』を読みながら海芝浦へ向かい、御茶ノ水で後藤明生『挾み撃ち』の足跡をたどり、産業道路の巨大スーパーの喧騒で大江健三郎『万延元年のフットボール』を読もうとする――小説の舞台となった街を、ただの“聖地巡礼”ではなく、内省をまじえてその意味を考え歩く、読書体験の記録だ。訪れる街には、『散歩の達人』2021年10月号の特集エリア・池上も登場。尾崎翠『第七官界彷徨』に導かれて足を運ぶ、本門寺の意外(!?)な見どころにも注目されたし。
実際の街が登場する物語というのは、その地を歩いてみればいっそう実体が浮かび上がるようで、登場人物や作家の思惑を追体験したくなる。ただ、同じものを読んでも、同じ場所にいても、自分以外の誰ともそれを本当の意味では共有できないことを著者は自覚しており、ある種の諦観をまとった問わず語りはひょうひょうとしていて不思議と心地よい。
「うろん」な紀行録は、時には自分自身のことを言い当てられたように、内面の奥深くへドキリとするような問いを投げかけてくる。いつだって不確かな自己を引き受けながら、本に導かれて街へ出る。そんな読書体験がやがて自身の救いになるのだと思わせてくれる読後は、さっそく本を持って散歩に出かけてみたくなるはずだ。(吉岡)

『しらべるちがいのずかん』

おかべたかし 文 やまでたかし 写真/ 東京書籍/ 1760円+税

一見似ているものや、実はエリアや時代で異なるものなど、さまざまな「ちがい」に着目する図鑑。児童向けだが、シシトウの辛みの有無の見分け方など、大人が読んで気になるものも。細かな差異に気づく観察眼は、日頃の散歩をより楽しむコツにもなるはず。個人的には、関東と関西のネコの特徴の違いに驚いた。(高橋)

『地理マニアが教える 旅とまち歩きの楽しみ方』

作田龍昭 著/ ベレ出版/ 1793円+税

地理好きの著者による、旅と街歩きを“地理的”に楽しむための入門書。著者はまず「近所歩き」から提案。近所の歴史や形状を知る魅力から始まり、少し遠くの街への旅、その旅を楽しむためのコツを紹介する。地理を楽しむ場づくりや交流の方法などにも言及。秦野、加須・久喜など、地理を楽しむための12の街も興味深い。(土屋)

『横浜の名建築をめぐる旅』

菅野裕子+恩田 陸 著/ エクスナレッジ/ 1760円+税

赤レンガ倉庫から横浜三塔、不二家レストランまで。横浜の特徴的な近代建築32点に着目した一冊。階段のカーブや扉の装飾、窓からの光など、空間美や時代の空気感を映し出す写真が秀逸で、文章には肩肘張らずに建築を楽しむヒントが詰まっている。コラムや対談で語られる、小説家・恩田陸の“建築眼”も興味深い。(町田)

『散歩の達人』2021年10月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。