きっと子供にとっては贅沢な滑り台になる。そのカーブ以外の車体は、ひたすら壁。なにしろトータルデザインコンセプトは「BIG WAVE(雄大)」だ。ホームに停車していると、とても最高時速240kmで走るとは思えない。どちらかというと重厚な建造物のように見える。

デッキにあるジャンプシート。手前に倒して座り、手を離すと自動的に壁に格納される仕組み。
デッキにあるジャンプシート。手前に倒して座り、手を離すと自動的に壁に格納される仕組み。

大波のごとき建造物の室内は、バラエティに富んでいる。座席の種類は、階上席(2階席)、その下の階下席、フラットシート(1階建ての客室)、グリーン席があり、多くは2列+3列(グリーン席は2列+2列)だが、階上席の自由席は肘掛けなしの 3列+3列(ドア付近は動線確保のため2列+2列)。さらに自由席車両のデッキには、ジャンプシートと呼ばれる壁に格納される補助席もある。

新幹線通勤・通学の混雑緩和のため、多くの人を運ぶことを追求した仕様だ。結果、8両編成を連結した16両編成の定員は1634名。2020年デビューした東海道新幹線の最新型N700S(16両編成)の定員1323名と比べて311名も多く、高速列車では世界最大級だ。

8両編成を連結して16両編成にできる。一方の車両が近づくと自動で収納カバーが開く。
8両編成を連結して16両編成にできる。一方の車両が近づくと自動で収納カバーが開く。

多くの人を運ぶからといって、快適さをおろそかにしているわけではない。階上席、階下席に行くには階段を使わなくてはならず、車内販売のワゴンが行き来できない。そこでデッキにはワゴン用の昇降装置がある。スタッフにとっては作業が増える仕組みだが、車内で過ごす時間を楽しみたい気持ちに応えてくれている。また、車両の造りとしてバリアフリー化が困難ではあるが、8号車には車椅子昇降装置を設置している。Maxとは、「Multi Amenity Express」の略。その名の通り、さまざまな快適さを形にした車両なのだ。

オール2階建て車両ならではの工夫が随所に光り、見て回るだけで飽きないMaxだが、2021年10月1日に定期運行が終了することが発表された。

活躍の場は東北・上越新幹線

正式には、E4系新幹線電車。1997年12月20日に東北新幹線で営業運転を開始した。オール2階建て新幹線としては2代目で、当初は白・黄・青のカラーリング。2001年5月には上越新幹線でも運転開始、長野新幹線(当時)の臨時列車「Maxあさま」として軽井沢〜東京間(上りのみ)を走ったこともある。現在の白・朱鷺(とき)・青のカラーリングが登場したのは2014年4月。現在は、「Maxとき」(東京〜新潟)、「Maxたにがわ」(東京〜越後湯沢)として上越新幹線を走っている。

壁面には新潟のシンボル、トキのイラスト。上部にはラストランのエンブレムが施されている。
壁面には新潟のシンボル、トキのイラスト。上部にはラストランのエンブレムが施されている。

引退を前に、「Maxとき」に乗ってみた。階上席のA席に座り、2階席の車窓をじっくり堪能する。引退してしまったら、この眺めはもう二度と見られない。まず新鮮なのは、すれ違う新幹線の屋根部分が見えることだ。田端駅を過ぎてすぐ新幹線の車両基地が広がってくる。色とりどりの新幹線車両の長い編成に見とれていると、視線の先に尾久車両センターが見えてきた。

3月に引退したばかりの185系らしき車両も見える。大宮を過ぎると、新幹線の高架線路にくっついているようなニューシャトルの駅が次つぎに流れていく。ハイライトは東北新幹線と上越新幹線の分岐点。鉄道的見どころが満載だ。こののちだんだんと田園風景になり、遠くに山々が連なるようになる。

空気抵抗をやわらげるためのロングノーズデザイン。先頭部分の長さは11.5mもある。
空気抵抗をやわらげるためのロングノーズデザイン。先頭部分の長さは11.5mもある。

沿線の在来線の駅には写真や動画を撮影している人たちが多く見られた。一方で、検修作業担当、車内スタッフ、運転士それぞれに、2階建て新幹線ならではの技術と苦労があったと思う。関わった人みんながMaxを見送るだろう。さよならMax。
24年間、 おつかれさまでした。

文・写真=屋敷直子
『散歩の達人』2021年9月号より