1杯220円から。京都・宇治の老舗製茶問屋『山政小山園』の手摘み抹茶を使用
『ATELIER MATCHA』は抹茶のサードウェーブを自称している。抹茶と聞くと、畳の上に正座をして、抹茶茶碗を両手に持って、と格式張ったあれこれを想像するだろう。
しかし、『ATELIER MATCHA』が提案するのは、そんなことは気にせず、カジュアルに抹茶を楽しむこと。しかも1杯220円からとリーズナブルな値段で、テイクアウトもできる。
だからといって、安価な茶葉を使っているわけではない。『ATELIER MATCHA』は京都のお茶の産地、宇治で江戸初期から160年もの歴史を持ち、自社で栽培から加工までを行っている老舗の製茶問屋『山政小山園』のカフェ事業。使っている茶葉は、柔らかな先端の茶葉を手摘みして作っている小倉山という抹茶だ。苦味は程よく、旨味や風味を強く感じられる。
思い込みや型を取り払って、新しいスタイルで抹茶を出すカフェを作りたい。
『ATELIER MATCHA』の代表、長尾千登勢さんは大手広告代理店で日本の文化や高い技術を海外に紹介する仕事をしてきた。プライベートでは20代から裏千家のお茶に親しみ、専任講師の資格も取得している。出張先でも特技を活かして抹茶のデモンストレーションをしたり、外国人に抹茶を振る舞ったり、と行く先々で抹茶を知ってもらう機会も設けてきた。
「海外の人たちの中には抹茶を日常的に飲んで楽しんでいる人もいるんですよ。カフェオレボウルなどでシャカシャカと混ぜたあと、牛乳をたっぷり入れたりして。シリコンバレーに住むテック系の人たちが、よく抹茶を飲んでいるというのは有名な話ですね」と長尾さん。
一方で日本人は、器を3度まわすとか、掛け軸にコメントするとか、聞きかじった伝統文化の印象が強いせいか、畏まったイメージを持っている。「お茶会でも、案外、お抹茶の茶葉や味は、二の次になっていたりもします」。
そんな状況に疑問を持っていた長尾さんと、自由なスタイルで抹茶を楽しめるカフェを作りたいと考えていた『山政小山園』の取締役、小山雅由氏とが意気投合。2021年になって、たまたま現在入居しているビルのオーナーとも出会い、とんとん拍子で店をオープンした
京都の老舗『山政小山園』が最初のカフェを東京に出店することにしたのは理由がある。京都にはお茶の老舗によるカフェがいくつもある。立派な暖簾を表に掛けて、和の素材を使ったパフェやかき氷など甘味をメニューの中心に据えるのが王道だ。
『山政小山園』が目指していたのは、上質な抹茶を気軽に楽しむ新しい楽しみ方を提案すること。あくまで抹茶を全面に出すスタイルだ。それゆえ、抹茶に固定観念を持たない若い世代や訪日外国人に向けたアピールや、将来見込んでいる海外展開への足掛かりにしたいとの思いで、あえて京都ではなく東京に初出店することとなった。
茶のグリーンが目にも鮮やか!映えも意識したドリンク類
『ATELIER MATCHA』では3種類の濃さのストレートMATCHAドリンクが用意されている。MATCHAショットはエスプレッソスタイルとして、小さなショットグラスに濃い目の抹茶が入っている。まさしくエスプレッソのように片手でグラスを持って短時間で飲むスタイルだ。次に濃いのがホットのお薄MATCHA、そして一番薄いのが氷も入っているMATCHA WATER。
甘い方が好みの人には、MATCHAグリーンティーがおすすめだ。ガムシロップを使って、グラスの中で美しく2層に分かれている。
ごちそうMATCHAドリンクとして、クリームやゼリーを加えたスイーツとドリンクの中間のようなものも用意している。いちばん人気はMATCHAわらび餅しるこ。練乳氷の上に、深みのある味わいのあんこがトッピングされていて、中にはぷるぷるしたわらび餅が隠れている。別添えの抹茶を自分で注いて、ミルク色の中で抹茶が混ざっていくのを見るのも楽しい。
『ATELIER MATCHA』では店内で飲むドリンク類はすべてガラスの器で提供。テイクアウトの容器も透明なカップを採用した。ドリンク類を見ても楽しんでもらうためだ。以前は建築の仕事をしていた『山政小山園』の小山雅由氏が、抹茶を美しいドリンクやスイーツに仕立てたいと長年温めていたスケッチが形になっている。
オープン以来、近隣に務める人が昼間にやってくるほか、朝夕は散歩やウォーキング途中に立ち寄る夫婦の姿も見られる。毎朝、イタリア人のエスプレッソよろしく、Matchaショットを飲むお客さんもいるとのこと。
人形町はもともと江戸の昔から続く日本らしい文化の片鱗が今も感じられる場所。その人形町で抹茶を通した新しい和の楽しみが生まれて、いずれは世界に広がっていくのかもしれない。
取材・撮影・文=野崎さおり