こんなラーメン、どこにもない!

ひと口に「ラーメン」と言っても、その味は地域によって異なる。例えば九州なら、博多を拠点とした白濁したスープと極細麺がマッチする豚骨ラーメンがポピュラーで、濃厚な醤油豚骨スープに太めの麺が絡み合えば横浜の名物、家系ラーメンに。北海道に至っては札幌の味噌ラーメン、旭川の醤油ラーメン、そして函館の塩ラーメンと3つの街でそれぞれ異なるラーメンが人気を博している。

では、大井町ならではのラーメンとはどんなものだろう? もしかするとその答えを持っているのが『江戸一』なのかもしれない。

駅前の通りを歩いてわずか数十秒で見つかる好アクセス。自慢のラーメンはもちろん、つけ麺にも根強いファンがいる。
駅前の通りを歩いてわずか数十秒で見つかる好アクセス。自慢のラーメンはもちろん、つけ麺にも根強いファンがいる。

JR大井町駅東口から歩いてほんの数秒という文字通りの駅チカ店である『江戸一』。入り口にもデカデカと書かれた「鶏白湯+とんこつWスープ」を使用したこだわりのラーメンを提供してから早20年以上が経過。今でもこの味を求めてやって来る地元民が後を絶たないという。

店内はカウンターのみの12席が用意。アクリル板で仕切られ、感染対策も万全。
店内はカウンターのみの12席が用意。アクリル板で仕切られ、感染対策も万全。

「1998年に創業してからだから、2021年で23年になるね。これだけ長くやっていると小さいころからここに来てくれた子が大きくなって『この店のラーメンで育ったから』なんて言ってくれることもあって……うれしいよね。そう言ってもらえると」と、店主の荒木昌宏さんは語ってくれた。

店主を務める荒木昌宏さん。この道30年以上のベテランで、製麺からスープ作りまですべてひとりで行っている。
店主を務める荒木昌宏さん。この道30年以上のベテランで、製麺からスープ作りまですべてひとりで行っている。

川崎のラーメン店で9年ほど修行を重ねた後、「自分好みのラーメンを作りたい」という思いを胸にこの地にお店を開いた。以来、自他ともに認めるラーメン好きの荒木さんがあくなき探求心のもとで生み出したのが濃厚な豚骨スープとすっきりとした味わいの鶏白湯という異なるスープを組み合わせるラーメン。これが大井町の人たちの間で評判を呼び、すっかり根付いている。

全てをひとりで行うからこそ、生まれた『鶏豚ラーメン』

「博多だったら豚骨、横浜なら横浜家系みたいな地域ごとにラーメンって特色があるでしょ? そういうのにとらわれないラーメンが作りたいと思ったのが、この店のラーメンで表現できているかな?」と、荒木さんは自慢の一杯をこう評した。

このお店の看板メニュー、鶏豚ラーメンとはその名の通り、醤油豚骨スープをベースにした上に鶏ガラで取った鶏白湯スープを合わせて作ったラーメン。そこに荒木さん自ら手打ちしているという特製の麺を合わせてできる独自の一杯。濃厚ながら後味がすっきりとしていくらでも飲めてしまう味わいになっている。

ネギの増量とおつまみに嬉しい鶏皮焼きはなんと無料サービスという太っ腹! 鶏皮のパリパリとした食感が病みつきになること必至。
ネギの増量とおつまみに嬉しい鶏皮焼きはなんと無料サービスという太っ腹! 鶏皮のパリパリとした食感が病みつきになること必至。

「スープは醤油豚骨の味を自分好みにアレンジしようとして、鶏ガラで取ったスープを足そうと思ったのが始まりです。いろいろなお店でラーメンを食べてみて、あちこち研究したけれど、『自分だったらこうするな』ということでいろいろ試した結果で生まれたのがこのラーメンなんです」

自分好みの味わいを求めたあくなき探求心が、他のどこでも食べられない唯一無二スープを生み出したといってもいいだろう。

厨房では荒木さん自らが調理。「ヘイ!お待ち」といった感じでラーメンが登場。
厨房では荒木さん自らが調理。「ヘイ!お待ち」といった感じでラーメンが登場。

また、スープと同じかそれ以上にこだわりを持っているというのが麺。「製麺所で作ってもらうよりも味やコスパはいい」という理由ですべて自家製の手打ちスタイルに。イチからすべてを作りたいという荒木さんのこだわりはその麺づくりにも表れていた。

「北海道の小麦で『春よ来い』という品種があるんですが、麺ではすべてそれを使っています。麺がツルツルに仕上がって、他のどの小麦粉よりもラーメンには合っていた。これを丁寧にこねて製麺するようにしています」

2種類のスープづくりに丁寧な製麺作業……これだけ手間がかかるにもかかわらず厨房でラーメンを調理して提供するのも荒木さんという完全なるひとり体制。ちょっと休憩するのもままならないほどの激務に見えるが、荒木さんは「そうですか?」と意に介さない。

荒木さんのこだわりがたっぷりと詰まった、鶏豚ラーメン670円。自慢のダブルスープによる優しい味わいが印象的。
荒木さんのこだわりがたっぷりと詰まった、鶏豚ラーメン670円。自慢のダブルスープによる優しい味わいが印象的。

「確かに休む暇はないけれど、『麺がおいしい』ってお客さんに言ってもらえたら、休むわけにはいかないじゃない? つけ麺とかだとつけ汁に付けるのではなく、麺だけを食べる人もいるくらいだからね」

麺はなんと自家製。ツルツルとしたのど越しがもうたまらない!
麺はなんと自家製。ツルツルとしたのど越しがもうたまらない!

自慢の鶏豚ラーメンをさっそくいただいてみた。確かに豚骨スープにマイルドな鶏ガラ出汁が入ったことで見た目以上にすっきりとした味わいに。そして荒木さん自ら手打ちする麺は……お客さんの評判通りのもの。これなら麺だけを食べるという人がいるのも納得だ。

替え玉にはちょっと嬉しいサービスが!

のど越し抜群の自家製麺を堪能しつつ、スープをすする。その一連の作業だけが淡々と行われていくうちにいつしか麺を完食。すると荒木さんは「替え玉もありますよ」と、替え玉にする麺を見せてくれた。

ラーメンの替え玉サービスがあるのが江戸一流。ちなみに麺は標準のものと細麺(奥)とで選択できる。
ラーメンの替え玉サービスがあるのが江戸一流。ちなみに麺は標準のものと細麺(奥)とで選択できる。

替え玉の用意があるところやトッピング類を見ると、博多の豚骨ラーメンをイメージしがちだがどこか微妙に異なっている。かといって、まろやかな味わいでどれだけ飲んでも飽きが来ないスープは横浜家系ラーメンとも違う。いったいどんなラーメン?という問いに対し、荒木さんはこう答えてくれた。

カウンターには豚骨ラーメンの定番トッピングの辛味高菜が! これももちろん自家製だ。
カウンターには豚骨ラーメンの定番トッピングの辛味高菜が! これももちろん自家製だ。

「しいて言えば“大井町流”ですかね。僕自身が食べて『おいしい!』と思えるラーメンを作りたくて来たわけですからね。いろいろなラーメンを見ていいところを取り入れるようになったのが、この味が生まれたキッカケですね」

横浜家系ラーメンとも博多の豚骨ラーメンともまた違う新しいジャンルの「大井町ラーメン」。気になる方は『江戸一』で一度体験してみるといいかもしれない。

住所:東京都品川区大井5-3-9/営業時間:11:00~24:00/定休日:日/アクセス:JR・私鉄大井町駅から徒歩1分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌弘