一分のスキもないうまさ

『あさひ』があるのは、神奈川県の大和市。厚木街道と国道246号線の交差点近くにあり、大型トラックも停められる広い駐車場を持つ、立派なロードサイド店だ。

私はよく「一番おいしいと思う立ち食いそばは?」と聞かれるが、そのときは真っ先に『あさひ』の名前をあげる。

場所を言うと、都内住みの人間はたいてい困った顔をするのだが、いやいや、『あさひ』は車を1時間以上飛ばしてでも、食べに行く価値はある。それほどの店なのだ。

ナス天そばは420円。ナスが甘くてジューシー。
ナス天そばは420円。ナスが甘くてジューシー。

まずは天ぷらだ。かき揚げや各種野菜、揚げ具合がいいのはもちろんだが、とにかくいいものにこだわり、すべて国産を使っている。どれを食べても素材の旨みがしっかりしていて、その旨みが澄んでいる。

立ちのぼるカツオのいい香り。
立ちのぼるカツオのいい香り。

そしてそば、秦野にある製麺会社『川口製麺』の茹で麺を使っているのだが、風味、喉越しともに上等。茹で麺はどうしても、風味や食感で生麺にはかなわないのだが、『あさひ』の茹で麺は生麺以上。実に堂々としたうまさのそばなのだ。

どれを頼んでもハズレなし。
どれを頼んでもハズレなし。

そしてツユ。そば以上にそばのキモであるツユが素晴らしい。ひと口、すすった瞬間に全身がカツオの旨みと香りが包まれる。かえしとのバランスもよく、そばを食べながらも、ツユをすするのが止まらない。常連客は完飲している人も多いが、それも納得のうまさなのだ。

さて、ここまでクオリティの高い一杯が、なぜ街から遠い大和市のロードサイドで供されているのかと言うと、それにはこの店の成り立ちが深く関わっている。

おいしくて体によいものを食べてほしい

この『あさひ』を運営しているのは、土木工事を主に行っている「株式会社太陽開発」という会社で、そこの座間洋社長が、働くドライバーのためにと『あさひ』を始めたのだ。

洋社長も自ら仕事でハンドルを握っているだけに、ドライバー仕事がいかに大変かを知っている。そんなドライバーに、体によくておいしいものを食べてもらい、ホッと休める場所を提供したいと考えたのだ。つまり『あさひ』は、その成り立ちからドライバーのオアシスを目指していたのである。

大型トラックも駐められる駐車場。休憩しているドライバーも多い。
大型トラックも駐められる駐車場。休憩しているドライバーも多い。

そんな洋社長の思いを受け止め、ここまでの店に作り上げたのが、妻の弘美さんだ。料理好きではあったが、飲食店は未経験だった弘美さんは他店で働き、そばの作り方を学んだ。しかしそこからがすごい。弘美さんは「体によくておいしいもの」を目指し、学んだものをベースに『あさひ』をどんどん進化させたのだ。

入り口から続くカウンター。ここで注文して出来上がりを待つ。
入り口から続くカウンター。ここで注文して出来上がりを待つ。
カウンターの奥に飲食スペース。これに加え、屋外テラスも最近、作られた。
カウンターの奥に飲食スペース。これに加え、屋外テラスも最近、作られた。

まずは水。ダシの仕込みや炊飯に使う水は、高性能の浄水器で濾過したものを使用。ダシも高級なカツオ節をふんだんに使い、1日に4~5回、とっている。追いガツオまでしているというから、そのこだわりは相当だ。そばもいろいろな製麺会社の中から選んだ、こだわりのもの。ちなみにそば粉割合は、7割に近いという。野菜はすべて国産なのだが、より鮮度のよいものをと考え、地場産のものを積極的に使っている。

とにかく、すべてにおいて、まったく隙がない。

天ぷらはこまめに揚げられて、ほぼ揚げたてで食べられる。
天ぷらはこまめに揚げられて、ほぼ揚げたてで食べられる。

『あさひ』にはお客さんへの愛情が詰まっている

そんなこだわりの集大成と言えるのが、海鮮かき揚げつけ天だ。865円という高額メニューだが、一度、食べれば、その価格も安すぎると思うはず。そばは風味、喉越しとも文句なし。繰り返すのも面倒だが、辛汁も絶品。そしてなにより海鮮かき揚げが、ものすごい。

サービスのミニライス付き。そばを食べたらミニ天丼で食べよう。
サービスのミニライス付き。そばを食べたらミニ天丼で食べよう。

新鮮プリプリなホタテとエビ、イカがゴロゴロ入っている。それが揚げたて。玉ねぎ、春菊の旨み香りも生気に溢れていて、「おいしくて体によい」を食べながら実感できる。このメニューは何度か食べているが、そのたびに感動している自分がいる。

大きさを横の小瓶と比べてほしい。
大きさを横の小瓶と比べてほしい。

とにかく『あさひ』の魅力については、別媒体で紹介しているときも書ききれないほどあるのだが、最後に、この店のお客さんに対する愛情が感じられる逸話を聞いたので紹介したい。

以前、テレビ番組のロケ収録が行われたのだが、現場のコロナ感染対策もあり、収録中は店を閉めることとなった。しかし、それを知らずに来るお客さんも必ずいるはず。せっかく来ていただいたのに、なにも食べられないのでは申し訳ないとお弁当を用意し、当日、ロケ中に来たお客さんに配ったのだという。もちろん無料で。俗な自分には「いい人すぎる……」という感想しか出てこないのが、なんとも恥ずかしい。

本文で書けなかったけど、スパムおにぎり各種、天むすも間違いないおいしさ。
本文で書けなかったけど、スパムおにぎり各種、天むすも間違いないおいしさ。

先に『あさひ』のことを「ドライバーのオアシス」と書いたが、それは正確ではないかもしれない。ここはドライバー、そしてすべてのそば好きにとっての天国なのである。

住所:神奈川県大和市草柳541/営業時間:6:00~14:30/定休日:日・祝/アクセス:相模鉄道本線相模大塚駅から徒歩16分

取材・撮影・文=本橋隆司(東京ソバット団)