南インド料理ブームの立役者
JR高円寺駅南口を出て、中野駅方面にガード下沿いを歩くと現れる『ERICK SOUTH』と書かれた深緑色の看板。中に入ると、店内はカウンター席とテーブル席が並び、会計兼厨房を仕切るカウンターの手前には、お土産にもぴったりの冷凍カレーが種類豊富に販売されている。
『ERICK SOUTH』の仕掛け人である稲田さんが開発から携わるメニューは、多くが本場の南インド料理をベースにして作られている。冒頭で触れたビリヤニはもちろんのこと、カレーから前菜などのサイドメニューまで、インドのハイデラバード地方やゴア地方などに代表されるような本格メニューが並ぶ。ちなみにビリヤニとは、スパイスと肉または魚介を米と一緒に炊いた炊き込みご飯のような料理のことをいう。
豊富なメニューの中から今回いただいたのは、ランチ・ディナーの両時間帯で提供しているバラエティプレート。一つのプレートに、カレーとハーフサイズのビリヤニ、ビリヤニなどといただくライタと呼ばれるヨーグルトサラダ、スパイスなどでマリネした鶏肉を串焼きにしたチキンティッカ、全粒粉で作られたパンの一種・ロティ、そして生野菜サラダがセットになった大充実のメニューだ。
ビリヤニはチキンまたはマトンキーマから1種類を選べ、カレーはエリックチキンカレーやはちみつバターチキンカレーなどをはじめとする9種類の中から2種類を選べる。今回は、高円寺店でしか食べられない限定ビリヤニとなるマトンキーマビリヤニと、定番のエリックチキンカレー、日替わりの菜食カレー(この日はアヴィヤルという野菜のココナッツヨーグルトマスタードあえ)をいただくことにした。
名物のビリヤニは、香り高いバスマティライスがラムの旨味とハーブ・ホールスパイスの香りとスパイシーさを吸って、三位一体となっている感覚を味わえる。ライスがパラパラとしているからか、食べ進めてもまだまだ食べられる気がしてしまう。ライタをかけて味変すればなおのこと。
続いてカレーのターン。南インドのアンドーラ地方で食べられる古典的なチキンカレーの作り方が元となっているというエリックチキンカレーは、玉ねぎとトマトをベースに鶏肉を煮込んだサラサラとしたタイプのカレーだ。カルダモンやフェンネルを中心としたフレッシュなスパイス感と、黒胡椒やチリの爽やかな辛さが楽しめる。
そして、筆者初体験となるアヴィヤルは、南インドの西海岸側にあるケララ地方が発祥と言われている料理だ。スティック状にカットしたジャガイモとキュウリ、ニンジンを、ココナッツを粗挽きにしたココナッツファインとヨーグルト、マスタードで炒め煮して作られる。カレーと思って食べてみると辛さはほとんど感じず、ココナッツの風味とヨーグルトの酸味が新感覚の一品だった。ベジタリアンが多く住んでいるという南インドでは、このような植物性の食材がメインのカレーもポピュラーなのだそう。
一見ボリューム満点に見えるバラエティプレート。個人的にはぺろりと完食できたが、人によっては、体質やその日のコンディションなどで食べきれないということもあるだろう。
しかし、そんな時でも安心のサービスがある。この店では、ドギーバッグというテイクアウト用の容器を無料で提供しているため、店員さんに声を掛ければ余った料理を持ち帰ることができる。フードロスの削減にも、一役かっている取り組みだ。
本場の製法で作る本格ビリヤニ
この店の象徴でもあるビリヤニには、バラエティプレートで紹介したチキンビリヤニとマトンキーマビリヤニのほかにも、一人前ずつ炊き上げて作る特別なメニューが存在する。
ビリヤニの聖地といわれる南インド北部ハイデラバード地方に伝わる古典的な製法を用いた、その名もハイデラバーディクラシックシリーズだ。
種類は、骨付きマトンやサバ、野菜とパニールと呼ばれるチーズ、ビーフとチキンの4つ。それぞれの具材とスパイスをブレンドしたマサラ、米を層にして炊く調理法を用いるため、今回いただいたマトンキーマなどのタイプのビリヤニとは異なり、具材とマサラが混ざり合った部分、マサラだけの部分など、味のグラデーションが楽しめるのが特徴である。
オーダーが入ってから一人前ずつ炊き上げるため、提供まで20~30分を要するが、そのようなオペレーションを採用する店は本場インドでも珍しいというのだから、食べる価値は大アリだ。
「カレーの街になりつつある高円寺ならば、まだまだメジャーとはいえないビリヤニを豊富にそろえても、きっと受け入れてもらえるはずという想いから、このビリヤニというコンセプトを打ち出した」と話す小畑さん。その予感は的中し、コロナ禍の中でも地域に愛され続ける店へと成長しているようだ。
『ERICK SOUTH 高円寺カレー&ビリヤニセンター』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英