ラーメン屋らしからぬ!? スタイリッシュな外観
知る人ぞ知るラーメン激戦区である大井町。駅周辺を歩くとすぐにラーメン屋が見つかるが……そのラーメンとは横浜家系ラーメンや醤油豚骨をウリにするものなど、パンチのある味わいのものばかり。透き通ったスープが美しい“淡麗系”のラーメンは少数派だったりする。
そんな大井町で淡麗系のラーメンを食べるなら『麺屋 焔(えん)』が筆頭格に挙がる。なんせ2013年のオープン以来、クチコミだけでその評判が広まり、今では老若男女を問わずに連日お店へとやって来るという。
大井町駅南口から歩いて3分ほどのところにある『麺屋 焔』。ラーメン屋と言えば、黄色や赤などのビビットな色合いの看板がトレードマークなところがあるが、モノトーンでまとめられた外観はどちらかと言えば日本そばのお店のような雰囲気。そして店内へ入ってみると、壁をレンガ調のタイルで彩り、まるでカフェのようなスタイリッシュさ。そこにはステレオタイプなラーメン屋の雰囲気はどこにもなかった。
「実は店内の雰囲気はいかにも『ラーメン屋!』みたいなのにはしたくないという思いがあったんです」と、語ってくれたのは店主の西川大輔さん。自身のこだわりであるスープの透き通ったラーメン同様、あくまでもシンプルなものを好む様子がここからもうかがえる。
いらないものをそぎ落とす「引き算の考え」で作る絶品スープ
もともと複数のラーメン店で修業を積んできたという西川さん。あらゆる店でいろいろな職人と触れたことでいつしか自分流のスタイルを確立。そして「自分自身が食べたいと思うラーメンを作りたい」という思いで2013年、生まれ育った大井町に店をオープンさせた。
「僕がこのお店を開いた時はパンチの利いたラーメンや昔ながらのラーメンみたいなのはあったんですけど、さっぱりとしたスープをウリにしたお店って言うのがなかったんですよ。僕はそういうラーメンが大好きだったし、ないなら自分で作っちゃえ!ってね(笑)」
目指したのは透き通ったスープが際立つ淡麗系のラーメン。お店では塩味と醤油味の2種類を用意しているが、人気は「8対2くらいで」塩味が優勢。ということで、お店自慢の塩らぁめんをオーダーした。
ラーメン作りに対するこだわりについて伺うと「……特にはないかなぁ」という西川さんだが、鶏とカツオ節、煮干し、サバ節、そして昆布と魚介類をふんだんに使ったスープ作りはかなりのこだわりが伺える。あくまで自然の材料から出汁を取るため、スープ作りに使う材料の配合はその日の煮干しのサイズや季節によって微調整を加えるという職人技も光る。
こうしてできたスープに特製の塩ダレを合わせることで自慢の塩らぁめんが完成する。ふんわりといい香りのする丼からスープをひと口すすると、深い出汁の味が体にスーッと入っていく。
「僕自身、香川の讃岐うどんが大好きなんですが、それをルーツにしているところがあるんです。あのうどんも出汁が命ですが、このラーメンも出汁を利かせることを考えたんです」
通常、おいしいスープを作ろうとするといろいろな食材を入れて煮込もうと考えてしまうが、それだとどうしてもスープが濁ってしまう。透き通った色でなおかつ出汁の味をダイレクトに感じさせるスープを作るために西川さんは材料を足すのではなく、必要なものだけに絞っていくといういわゆる引き算の考えで作っていった。
「今までの経験もあると思うんですが、ラーメンのスープ作りって基本的にはどのお店も同じだと思うんですね。その中で足りないものがあれば足せばいいですが、僕は必要がないものを取り除くことから始めた。この材料を入れれば、どんな味になるかをイメージしながら選別するという感じですね」
いかにも簡単そうに話す西川さんだが、それができるのはプロのラーメン職人でもごくわずか。いろいろなお店を渡り歩いてきた経験と生まれ持ってのセンスの良さが随所に感じられた。
自分が好きなラーメンをお客さんに喜んでもらえるのが嬉しい
「自分が食べたいラーメンを作りたい」というシンプルな思いからお店を開き、自身の感覚、経験に裏付けられた確かな腕で自慢のスープを生み出し、そして『麺屋 焔』を人気のラーメン店へと成長させた西川さん。「お店が繁盛して成功したのでは?」と質問すると、照れくさそうにこんなコメントが返ってきた。
「まだまだ成功までは……ホントに成功している方なら自分で厨房に立たないで、スタッフに全部作らせて自分は悠々自適みたいな生活をしていると思いますよ(笑)。でも、自分が食べたいと思うラーメンを作って、それをお客さんに提供して喜んでもらえるというのは何より嬉しい。これからも厨房で精魂込めてラーメンを作るので、大井町へ来られたら、ぜひ食べに来て欲しいです」
西川さんの想いは自身が作る塩らぁめん同様、一点の曇りもない澄み切ったものだった。
構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌 弘