種類も量も野菜たっぷり。ボリュームのランチは納得の味
『GOLOSO TETSU』はシェフの木村哲章さん、通称テツさんが妻の恵美さんと2011年にオープン。広々とした店内はテーブルとテーブルの間に余裕があり、少し見渡すと動物のモチーフがあちこちに飾られている。
店名の”GOLOSO(ゴローゾ)”は、イタリア語で大食漢やたくさん食べる人というという意味。だから『GOLOSO TETSU』は、ランチも、一般的な店に比べるとかなりボリュームがある。シェフ夫妻はとりわけ野菜が好きで、ランチのサラダや前菜の盛り合わせもいろんな種類の野菜を取り入れるのが常だ。
「自宅でいろんな野菜を集めて一度の食事で食べるのは難しいから、外食でちゃんと野菜を食べられるといいなと思っています」と恵美さん。
ランチで食べられる日替わりのパスタは平日も週末も3種類用意されていて、その中にも野菜がたっぷりのメニューがある。週に1、2回登場する自家製ソーセージと野菜のトマトソースが代表的だ。一目見れば野菜がたくさん使われていることがわかるが、迫力を感じるボリュームにも釘付けになってしまう。
自家製ソーセージは、イタリアでサルシッチャと呼ばれるもの。噛みごたえを残した粗挽きの豚にハーブのフェンネルを利かせて、少しスパイシーに仕上げている。スパゲティは1.7mmと、一般的な店がランチに使うものよりも見るからに太い。テツさんはその理由を「具材に負けないボリューム感を出すためと、ランチをゆっくり食べる方のためです。太い麺は細い麺より時間が経っても伸びにくいんです」と教えてくれた。
教えてもらった現地のイタリア料理を文化ごと崩さず伝えたい
テツさんの生家は、吉祥寺の中華料理店。町中華というよりは格のある店で、上下関係も厳しく厨房はいつも緊張感が漂っていた。その様子を見て育ったテツさんは、専門学校で学んだあと、オープンキッチンの感じのよさや、明るく元気な雰囲気に惹かれてイタリアンの道へ。東京にあるイタリアンの中では老舗といえる恵比寿『イル・ボッカローネ』で修業したあと、本場でイタリア料理を学ぼうと、イタリア北部のピエモンテ州と南部のシチリアに約2年にわたって繰り返し足を運んだ。
2011年に独立して西荻窪の今の店を開いて以来、大切にしているのは伝統的なイタリア料理が持つ味と食文化を崩さないこと。「2年間イタリアに滞在している間、修業先のお店ではいろいろとお世話になりました。言葉もしゃべれない、家もない身で受け入れてもらって、本場の料理を教えてもらったことを自分の店でちゃんと生かしたい。やはり料理も文化だと思うので、アレンジをしすぎて崩してしまわないように心がけています」。そう話すテツさんはイタリアでの経験について、「お世話になった」と繰り返した。
オリーブオイルやトマト缶、チーズといったイタリア料理の味を決める食材を中心に、なるべくイタリア産のものを使っている。また、ランチには登場しないが、ディナーでは手打ちパスタを用意。そのうちアニョロッティという包みパスタは、テツさんが滞在したピエモンテ州の郷土料理だ。現地でタヤリンと呼ばれて、トリュフとよく合わせられるリボン状のパスタも、トリュフがおいしい時期に登場する。どちらも日本ではそれほど馴染みがないが、本場の味を西荻窪の人たちに味わって欲しいという気持ちが現れている。
もうひとつ、テツさんが気を遣っているのが最後まで食べ飽きないこと。『GOLOSO TETSU』の料理は、なにせたっぷり盛り付けられている。塩気は控えめにする代わりに、ハーブやスパイスで味や香りにインパクトをつけた料理もメニューには多い。途中で使って欲しいと辛いオイルや胡椒を手渡すこともよくあるそうだ。
妻の恵美さんは、デザートやホールを担当している。西荻窪という土地柄、近隣に住む40代から50代の常連客が中心だが、常連客とも節度ある距離感を保って、落ち着いた雰囲気になるよう心掛けている。「特に週末は、小さなお子様連れの若いご夫婦と、子育てが終わった年配のご夫婦がテーブルを隣り合わせることも多いんです。どちらもニコニコなさっている、そんな景色を見るのがとても好きなので、間口が広く保たれる店でありたいと思っています」と話す。
住宅街にあって親しみやすい店構えの店内で、本場の味が気軽に食べられるイタリア料理店『GOLOSO TETSU』。お腹をペコペコにして、思う存分料理の味を楽しみたい店だ。
取材・撮影・文=野崎さおり