2021 roadside odyssey《2021年路傍の旅》

駅の近くの住宅街に突如として謎の黒板が出現しました。マットな鉄の質感といい、その超然たるたたずまいといい、実にモノリス然とした風格です。

勘のいい人ならもうおわかりかもしれませんがこれは裏側です。道路に面した方が表側で、これから新築されるマンションのモデルルームのロゴが刻まれています。

高級なイメージを演出するためか鉄板の張子の造作で、見た目にも重厚なモニュメントのようです。小分類として〈裏側モノリス〉と名付けてみます。

Backside of Monolith《モノリスの裏側》

大学のキャンパスの入り口でも〈裏側モノリス〉を発見しました。

背も高く幅も広めで存在感があり遠目に見て、おっ!と思ったのですが、近寄ってみると上下を継ぎ足した線が残っているのが残念なところです。

側面が銀色のフレーム部材で仕上げられているのは、見方によっては工業的なミニマル彫刻のようでかっこいいのですが、宇宙の意思をつかさどる存在としてはいまひとつ神秘さに欠けています。

表側にまわるとキャンパスの見取り図に建物の名前が見慣れた地球の文字で記されていました。進化の兆しは見られません。

Monolith d’argento《銀の進化板》

地下鉄のホームで銀色のモノリスを発見しました。

いや、正確には以前からずっとあったはずなのですが、新型コロナウイルスによる非常事態宣言が続いて乗降客が少なくなったいま、あらためてその存在が目に入ってきました。

ふと気がつくと降り立ったホームに人影はありません。どうやらこれに触れた通勤客はつぎつぎとリモートワーカーに進化してしまったに違いありません。

White Monolith《ホワイトエディション》

宇宙意思のメッセンジャーもホワイトエディションを投入してくるとはなかなかおしゃれでレアな展開を仕掛けてきたなとボケて感心したくもなるのですが、あらためてちょっと冷静に考えてみてください──この四角い箱、本当はいったい何なのかと。

ふだん駅を利用している分にはまったく気にならないのですが、実は地下鉄のホームに設置されているこの平たい直方体は消火栓ボックスなんですね。中には消火器や放水ホースが入っています。

表側には確かに消火栓という文字の書かれた扉と赤い非常燈がついているのですが、このように裏側から見るとさっぱりわかりません。むしろ外観を銀や白にすることで周囲の環境と同化させ、存在感を消そうとしているわけです。

しかし、空港や海外の都市ではこうした消火栓ボックスは全面透明で、中身をわざと見せているものがあります。中身を隠さずに可視化することで非常時への心の備えと日常の安心感を与えてくれるわけです。

そう考えるとこの駅の消火栓ボックスは見た目がモノリスの割に公共デザインとしては時代遅れとしか言いようがありません。進化すべきはこのモノリスの方です。

Wooden Monolith《江戸っ子のモノリス》

時代遅れと言われるくらいなら、てやんでえ、いっそ時代を逆行してやろうじゃないかと言わんばかりに、東京の下町、深川資料館通り商店街で木製のモノリスに遭遇しました。

近くに木場という地名が残るとおり江戸時代から材木商の町ですからね。粋でいなせな江戸っ子のモノリスはこうじゃなくちゃ。触るとべらんめえ口調が板についちまう、という駄洒落のオチも思いつきましたが、ここは堪えてもう少し解説を続けます。

よく見ると無垢の一枚板でも合板でもなく集成材を使っているのですが、雨に濡れても変形しないからでしょう。さすがです。

そしてこの木製モノリス、実はひとつでなく道の両側にずらりと並んでいました。木場の正月飾りの看板の名残のようです。来年はちゃんとお飾りがついた状態に遭遇できるようお正月に来てみようと思います。

 

文・写真=楠見清