Falling leaves of words《言の葉が散る》

たとえばこの看板。一見すると文字のほとんどがかすれて読めませんが、近寄って目を凝らしてみるとうっすらと読めますよね?

正解は「この駐車場の中で遊ばないで下さい」。

でも、漢字で書いてしまったら最初から小さな子には読めないんですけどね。

Kanji dictation test《漢字書き取りテスト》

というわけで、子供たちへの注意看板はやはり平仮名が原則。漢字には振り仮名が必要です。

その点、行政の仕事はしっかりとしています。市役所が設置したこの看板はやさしい文体ですべての漢字に読み仮名を振ったところまでは良かったのですが、非耐候性の塗料で書かれた本文がすべて消えてしまい、まさに小学生向けの漢字の書き取りテストのようになってしまいました。「餌付け」とかなかなかの難問も混ざっています。

Deciduous tree《落葉樹》

駅前に掛けられていた看板です。大きく書かれた「ご注意」までは読めるのですが、その先が読めません。

近寄ってみるとこんな感じでした。

なんと、褪色した部分も塗料の跡が残っているので意外に自然に読めてしまうのです。

塗料の特性なのでしょうか。そこのところはわかりませんが、実はこうした昔ながらの看板屋さんの書き文字そのものが今後世の中から消えていく運命にあるわけです。

Dots and specks《ホクロとソバカス》

さらに褪色や剥離が進むとこのように。文字の痕跡はもはや点々になってしまいました。

何だかソバカス顔の少年のように屈託のない様子で憎めません。いかにも夕日に映えそうな看板ではないですか。これはこれで住宅地の景色になじんだ愛すべき存在なのかもしれません。

Thin voice《かぼそい声》

アパートの入り口の門扉に横長のプレートが貼られていました。

もはやほとんどの字が消えており、かろうじてわかるのは「臓」「悪」「さ」の三文字くらいなのですが、読むことはできますか?

答えは「心臓の悪い人がいますので静かに閉めて下さい」。

この鉄の門扉をガシャーンと閉めていく人がいたのでしょう。

かぼそい声で息も絶え絶えにお願いしている様子にこちらの胸も詰まります。

Just parking《もはや駐車しかない》

いろいろな〈枯れ文字〉を観察してきた中で異色のものを見つけました。

ふつう紫外線の影響ですぐに褪色するのは赤い文字なのに、ここでは黒い文字が消えて赤い文字が残っているのです。

たぶん赤い部分は指定の耐候性塗料を使ったのに、黒い部分は屋内用の非耐候塗料を流用してしまったため雨雪や気温の変化に負けてしまったのではないかと推察します。

大事なことを強調した赤い文字だけが消える〈穴埋め問題看板〉はよく見かけますが、その逆とは珍しい。

もはや駐車しかない、という皮肉な結果となってしまいました。

Faded hand lettering《枯れた筆耕》

これも駐車規制の看板ですが、実に寂びの境地を感じさせてくれる一枚です。

平筆のタッチが浮かび上がってきたことで、手書きのレタリング文字の筆運びが透けて見えるようです。画面全体を覆う雰囲気のある枯れ方は絵画的ですらある。

これはプリント看板では到達しえない、手書き看板だけが辿り着く無常の境地にほかなりません。

〈枯れ文字〉看板、知るほどに奥が深まります。

 

文・写真=楠見清