その「まんま」の良さと、一期一会を大切にする想い
南北に広い木場公園の西側に沿って走る三ツ目通りに『mammacafe151A』は店を構える。読み方は“マンマ カフェ イチゴイチエ”。
愛情豊かなイタリアの“マンマ(ママ)”のように健康に配慮した、できるだけ新鮮な食材を “そのまんま”使うこと。お客さんはもちろん食材や器、生産者ひとり一人との“一期一会”の出会いを大事にしていきたい。そんなあたたかな気持ちが込められた名前だ。
手間ひまかけるのは愛の印。赤みそが香る野菜たっぷりのハヤシライス
11時からはじまるランチタイムは、赤城ポークの有機生姜焼き1050円が人気。ほかにも日替わり漬け焼き魚御膳1050円、南房総じろえむ産平飼有精卵のたまご飯850円といった素朴なメニューがならぶ。ボリューミィなお肉やお魚が日替わりでメインになる、本日の151A膳1050円も評判が高い。
今回は国産牛のハヤシライス赤みそ仕立て950円を注文。
亀戸の老舗『佐野みそ』から仕入れる赤みそをベースに作るハヤシライスは、どこか懐かしい和の味わい。業務用のルーやデミグラスソースを使用せず、とろみはすり下ろしたじゃがいもでつける。自宅では食べられない手間ひまかかった一皿だ。
顔の見える生産者から納得できる食材を仕入れる
できる限り有機栽培・無農薬の食材を使い、食材の数自体もなるべく多く盛り込みたいと教えてくれたのは調理を担当する店部真起(たなべ まき)さん。夫の浩司さんとふたりで店を切り盛りする。
「どんな人が、どんなふうに作った食材なのか。私自身がきちんと分かって、心から“いい”と思えるものをお出ししたいんです」
器も同様だ。産地を確かめ、窯元へ足を運んだりしてから“いい”と思える器を使う。食の安心・安全・産地のこだわりをうたう飲食店は多いが、ここまで徹底しているお店はなかなか珍しい。
下町・深川を知り尽くす顔役としても活躍するマスター
早朝6時から仕込みをはじめる浩司さんは、街のイベントを運営するなどこの地域の顔としても知られている。
「このあたりはブルーボトルコーヒーが上陸した 2015 年頃からおしゃれなお店が増えて今ではすっかりコーヒーの聖地なんて言われていますよね。でも、もともとは下町です。今でも地区ごとに神輿をかつぐ文化が強く根付いていて、お祭りや人のつながりを大切にしています。だからお互いにお客さんを紹介しあったり、困ったら助け合ったりするのは日常茶飯事で。損得抜きで共に生きていく、運命共同体みたいなものですね」
この街の外から遊びに来るならば、なおさら浩司さんを訪ねてみてほしい。地元の人が通うようなお店や、おすすめのスポットを教えてくれるだろう。
「自分らしい暮らしのため」独立独歩の精神でローカルに根を下ろす
真起さんに店を開いたきっかけ聞いてみると、「実際のきっかけは、やむを得ずでして……」と静かに教えてくれた。
真起さんは管理栄養士の資格を取得後、飲食業やフードスタイリストなど、食に携わる仕事を続けるなかで結婚・出産を経験。しかし同じく飲食業界で働いていた夫の浩司さんの全国転勤についていくことで、子どもを育てながら仕事に戻ることが難しくなった。短期間で引っ越しを繰り返すような落ち着かない日々が続き、思い切って夫婦で独立を決心。
2013年、この店を構えることになる。
「大手に勤めていた夫が会社を辞めて、小さな子どもを抱えながら自分たちだけでお店を開くのは不安もありました。けれども、自分たちの店ならば、少なくとも会社の都合で振り回されることはなくなりますから、ね」
他人に人生を翻弄されず、地域に根を張って自分たちの暮らしを築いていく。そんな決意のもとで始まったからこそ、どんなに手間がかかっても妥協をしない、こだわりのつまった店になったのだ。
構成=フリート 取材・文・撮影=mammacafe151A、宇野美香子