「文房具のコレクター」から、オリジナル文具販売へ
銀座の並木通りとレンガ通り、そして並木通りと晴海通りに囲まれた区画に、小さな路地がある。その路地を入っていくと、小さいけれども立派なお稲荷さん、宝童稲荷神社が顔を出す。せっかくなのでお参りをして、さて……と振り向くと、今回のお目当ての店『ぎんざ五十音』が現れる。
2人も座ればいっぱいになってしまうような店内には、個性的な文房具がズラリ! 一つひとつに味があり、ついついじっくり眺めてしまう。
こちらのお店、もともとはただの“文房具好き”でいろいろ集めていたオーナーの宇居野さんが「こんなにあるのなら売ればいいのでは?」と言われたことから開店したとか。最初はボールペンと鉛筆にこだわった店としてスタートし、海外などで買い付けてきたものを展示・販売していた。しかし独自に手掛けていったオリジナル文具が増えていったことで、今ではそちらを中心に販売する店に。
こちらの店は少し変わった営業形態で、訪問したいお客はまず来店予約をし、ワンドリンクをオーダーするスタイル。飲み物をいただきながらゆっくりと店内を眺めたり、お目当ての商品を吟味できるというわけだ。
『五十音』のオリジナル文具は、ユニークなものが多い。例えば、鉛筆が短くなった時にかぶせて使う「補助軸」。『五十音』の手にかかれば、まるで万年筆のように見える「ミミック」や、真鍮のデザインがシックな「エクステリバー」など、従来の補助軸のイメージを覆してくれる。
特に「エクステリバー」は、意外にも中高生に人気なのだとか! デジタルネイティブの子供たちにも文房具の魅力が脈々と伝わっているかと思うと、なんだかうれしくなってしまう。
「文房具は一番パーソナルな道具ですよね。それでいて、子供でも買うことができる。そんなところが魅力だと思います」と宇居野さん。オリジナル文具はネット販売もされているけれど、やはり実物を確かめてみたいという目的で訪れる人が多いそう。
「文房具✕お稲荷さん」となったのには、理由があった
少し不思議に思ったのが、店内に「キツネ」のグッズが多いこと。おキツネクッキー(缶入り2000円、1枚200円)や、数々のキツネモチーフのグッズ、店内に置かれたキツネのぬいぐるみなどなど。
「実はこの店、宝童稲荷の門前茶屋も兼ねているんです」と宇居野さん。お店を開店するとき、たまたま見つかったのが神社のお向かいにあったこの物件。入居が決まったあと、近隣の方たちとも話し合って宇居野さんが管理を任されることに。
「お店をオープンしたら、お稲荷さんが付いてきた感じですね(笑)」
なんとも、不思議なめぐり合わせ。でもこの空間の居心地の良さを思うと“必然”だったのかなとも感じられてしまう。今では文房具を購入したい人はもちろん、宝童稲荷にお参りに来るついでに立ち寄るご近所の方も多いとか。
そうそう、店内でもう1つ気になったのが黒板に書かれた百言符占いの文字。「ももことふ」と読むそうで、宇居野さんによる独自メソッドのカード占いもこちらでは行ってくれるそう。オリジナル文房具を買いに行くもよし、お参りあとにお茶を楽しみながら占いをお願いするもよし。少なくとも、これまでとは少し違う“銀座での1日”が楽しめるのは間違いないはず。ぜひ予約の上、訪れてみてほしい。
構成=フリート 取材・文・撮影=川口有紀