どんな味に出合えるかはお楽しみのベーグルと焼き菓子
飲食店が軒を連ねる通り、その一角にオープンしたばかりの『Cafe Cwtch』。木製のドアを開けると、目の前には階段が伸び、その脇には厨房兼会計スペースがある。
少々急な階段を上って2階に上がると、屋根裏を活用したカフェスペースが姿を現す。テーブル席、カウンター席、ベンチ席が配置された、全部で5席ほどの小さな空間だ。
そんな秘密基地を思わせるような店内でいただけるメニューは、片桐さん手作りのベーグルがメインのランチプレートと焼き菓子。素朴な味を意識して作られたベーグルと焼き菓子は、どれも素材の味を活かした仕上がりになっている。また、焼き菓子には卵とバターを使用せず、きび砂糖で甘さを出しているという。
「味の組み合わせを考えるのが大好き」と話す片桐さん。この店で提供しているベーグルと焼き菓子の味は日替わりのため、どんな味に出合えるのかも楽しみの一つだ。この日いただいたのは、アーモンドチーズのベーグル、シナモン生地にバナナとチョコチャンクをトッピングしたマフィン、アールグレイ生地に甘夏とレモンのジャムを巻き込んだスコーンだった。ランチプレートのサイドメニューを含め、旬の食材を使うことが多いようだ。
また、コーヒーもこの店のオリジナルで、片桐さん自らロースターに出向いて味にこだわったブレンドも楽しめる。アンバーは、浅煎りながらも酸味を抑えた味わいが特徴。ダークは深煎りで、ほろ苦さの後から甘みを感じる味わいが特徴だ。ほかにも、和紅茶や手作りのスパイスシロップを使ったチャイなど、こだわりのドリンクメニューが充実している。
温かな想いのバトンをつないで
以前この場所で営業していたカフェの壁色を、そのまま活かしたという内装は、どこかカントリーシックな風貌。聞けば、イスもテーブルもすべてご家族の手作りなのだそう。「テーブルとベンチ以外にも、刺繍の入った手縫いのクッションやカーテン、それにエプロンまで、すべて家族が作ってくれたんです」。
ご家族の愛情を感じるアイテムでそろえられた店内。内装の一番のポイントともいえる多くのドライフラワーの中にも、友人やSNSでつながった方から贈られたものがあるようだ。
自身の思い入れのあるものに囲まれながらお店を営業することで、「お店を切り盛りしているのは私一人ですけど、ここにいると一人ではないような心強い気持ちになれるんです」と話す。
そんな片桐さんの趣味は陶芸で、2018年から教室に通いはじめ、これまで多くの作品を作り出している。この店で使用している器もすべて片桐さんの手作りだ。
この趣味は、カフェを開くきっかけにもつながった。「陶芸をはじめてから、いつか自分の器を使ったカフェを開きたいなと思うようになりました。その頃は40代とか50代にと、ゆくゆくのつもりで考えていたんですけどね」。
ある時、片桐さんはカフェやケーキ店の店主と会話をする中で、その夢を後押しされるような機会に遭遇した。例えば、ある店主は自身の経験をもとに開店資金の調達方法を教えてくれ、またある店主は開店準備に必要なDIYの手助けを申し出てくれた。そんな出来事が積み重なり、予定していた年齢より数十年も早く自分の店を持つことができた片桐さんは、こう感謝の気持ちを告げる。
「本当にいろんな方のおかげで、想像していたよりも早く自分の夢をかなえることができました。家族や知人など、助けてくださった人たちに、きちんとお返しをしたいです。そして、今まで受け取ってきたたくさんの温かい想いを、お客様へも何らかのかたちでつないでいきたいと思っています」。
店名に掲げた“Cwtch”とはウェールズ語で、相手に寄り添う、隠れ家、食器棚など、多くの意味があるという。その意味のどれもが、片桐さんの想いや店のイメージにマッチする。「この店が誰かのお守りのような存在になれたら」。そう優しい笑顔で語る片桐さん。店主の想いが色濃く反映される店が多く集まる西荻窪に、またひとつ素敵な店が増えた。
『cafe Cwtch』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英