200以上の製造工程を経て、生まれる名品

総コードバン(艶あり)・プレミアム 18万7000円(黒、赤)。素材選びから縫製(重要箇所は手縫い)、取り付けまで妥協なしの最高級品だ。
総コードバン(艶あり)・プレミアム 18万7000円(黒、赤)。素材選びから縫製(重要箇所は手縫い)、取り付けまで妥協なしの最高級品だ。

千住の地場産業といえば、明治時代から発展した皮革製品。皮のなめしなどに大量の水を使うため、荒川と隅田川に囲まれた千住は好立地。革屋(タンナー)が集まり、靴や鞄のメーカーが林立した。鞄職人が多いとされる国道4号沿いにあるのが、『大峽製鞄(おおばせいほう)』。ランドセル製造の草分けで、名だたる小学校に採用されるランドセルのトップメーカーだ。
その製造工程はなんと200以上。鞄づくりで真っ先に思い浮かぶ縫製では、手縫いを多用するのが特長。これが強度と美しさをもたらす。が、実は最も重きを置く工程は裁断なのだとか。

コードバンを広げて、裁断前にあらゆる傷を見つけ出す。
コードバンを広げて、裁断前にあらゆる傷を見つけ出す。

材料となるコードバン(馬の尻の革)や牛革の大きな革は、台に広げ、血筋などの傷を探して銀ペンでマーク。慎重に素早く手と目を動かし、時々、表面を曲げ、見る角度を変え、微小な傷も見逃さない。傷を除(よ)けつついかに無駄なく裁断するかは職人の腕の見せ所。裁断の前後も見直し、徹底的に傷をさらう。

パーツを作るため機械で革を型抜き。
パーツを作るため機械で革を型抜き。
切り出したランドセルの大まかなパーツ。
切り出したランドセルの大まかなパーツ。

「品質はここで8割方決まると言っても過言ではありません。寿司職人が仕込みに相当時間をかけるのと近いものがあると思います」とマーケティング担当の南谷誠さん。製造の大部分を郊外に移しても、裁断工程だけは本社で。この土台なしに大峽のランドセルは語れない。

パーツの断面にニスを塗り重ねる「コバ塗り」の作業。
パーツの断面にニスを塗り重ねる「コバ塗り」の作業。

大峽製鞄(おおばせいほう)

昭和10年(1935)、学生鞄の製造から創業。ランドセルづくりで培った技術をもとにビジネスバッグや革小物なども製造。ランドセルの種類は18シリーズほど。特許形状の収納や背負いやすさ、長持ちする丈夫さが評判。使用後は小型ランドセルへのリメイクも可能。本社直営店もあり(来店予約制)。

●JR・私鉄・地下鉄・つくばエクスプレス北千住駅から徒歩10分。東京本社直営店は10:00~16:30、木休。東京都足立区千住4-9-2 ☎03-3881-1192

取材・文=下里康子 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2021年6月号より