「飛び出し看板」を分類してみよう

全国的に最も有名な飛び出し看板は、赤い服を着た男の子の「飛び出し坊や」であろう。滋賀県八日市市(現・東近江市)で約50年前に制作されたものがはじまりとされ、今や全国に普及している。この「飛び出し坊や」のような、板を人型に切り抜いたタイプの看板は、以前各地に設置されていた立体の「横断旗人形」(横断歩道に設置された、横断旗を入れられる樹脂製の人形)に代わるものと考えられる。ドライバーの注目も集めやすいため、さまざまなバリエーションが作られている。

最近各所で見られる飛び出し女の子。男の子バージョンもある(調布・2021)
最近各所で見られる飛び出し女の子。男の子バージョンもある(調布・2021)
京都で見かけた飛び出し坊や。オリジナルだろうか(2016)
京都で見かけた飛び出し坊や。オリジナルだろうか(2016)

一方、普通の四角い看板についてはどうだろうか。川崎・小向に設置された看板は、文字のみで「危ない!! とびだしは事故いつぱい 車はきゆうに止れない」と大書され、緊迫感を与える作りになっている。

素朴な作りながら、見る者に圧を与える看板(小向・2020)
素朴な作りながら、見る者に圧を与える看板(小向・2020)

しかしこの言葉は、ドライバーに向けてというよりは、飛び出す側の子どもに向けたものなのかも知れない。北砂の看板も「あぶない!とびだし」の文字とともに怒る子どもの顔が描かれており、これも子どもに向けた注意とみてもよい。

子ども同士の忠告ならば、守ってくれそうな気がする(北砂・2021)
子ども同士の忠告ならば、守ってくれそうな気がする(北砂・2021)

とはいえ全体的に見れば子どもに向けた飛び出し看板は稀であり、ドライバー向けのものの方が圧倒的に多い。そこで、こうしたドライバー向けの「飛び出し看板」を分類してみよう。「飛び出し」という言葉を用いていなくても、徐行を促す看板については、広く「飛び出し看板」に含めても良いと思われる。

カメの絵がいい味を出している(大蔵・2021)
カメの絵がいい味を出している(大蔵・2021)
広尾の路地に立てられた看板。子どもが右向きバージョンと左向きバージョンとがあり、 どこからでも飛び出してくるぞという警告になっている(2021)
広尾の路地に立てられた看板。子どもが右向きバージョンと左向きバージョンとがあり、 どこからでも飛び出してくるぞという警告になっている(2021)
スピード出し過ぎ警告看板ではあるが、美女が飛び出してくるかもしれないと思わせる(熱海・2008)
スピード出し過ぎ警告看板ではあるが、美女が飛び出してくるかもしれないと思わせる(熱海・2008)

基本要素は「ボール・子ども・車」

まず「飛び出し看板」に必ずと言っていいほど描かれるのは、子どもの絵である。タヌキが飛び出す益子の看板や、ピクトグラムでデザイン化された祐天寺の看板などの例もあるが、ごく少数である。

飛び出したタヌキがどことなく嬉しそうなのはなぜなのか(益子・2015)
飛び出したタヌキがどことなく嬉しそうなのはなぜなのか(益子・2015)
これ以上ないほどのシンプルなデザイン(祐天寺・2021)
これ以上ないほどのシンプルなデザイン(祐天寺・2021)

また女の子は数が少なく、圧倒的に男の子が多い。

平面看板には珍しい女の子バージョン(奈良・2019)
平面看板には珍しい女の子バージョン(奈良・2019)

看板に描かれる場面で最も多いのが、「ボールを追いかける」である。

ボール・子ども・車という、飛び出し看板の基本が揃う(志茂・2021)
ボール・子ども・車という、飛び出し看板の基本が揃う(志茂・2021)

やはり飛び出しが起こりやすい状況だからであろうか。

狛江や六浦の看板は、昔から各地で見かける絵柄だ。

ワンパクそうな少年の絵柄は、昔から各地で見かける(狛江・2020)
ワンパクそうな少年の絵柄は、昔から各地で見かける(狛江・2020)
こちらも昔からよく見かける柄である(六浦・2020)
こちらも昔からよく見かける柄である(六浦・2020)

子ども単体で描かれる場合もあれば、八広の看板のように驚くドライバーとセットで描かれることもある。

一コママンガ風の看板(八広・2021)
一コママンガ風の看板(八広・2021)

ドライバーが省略され、車自体が擬人化されている絵柄もよく見られる。

浜町公園に設置された車に顔があるタイプの看板。これは飛び出す子ども向けかも知れない(2020)
浜町公園に設置された車に顔があるタイプの看板。これは飛び出す子ども向けかも知れない(2020)
少年マンガ風の絵柄。車が擬人化される場合、フロントグリルが口になりがち(目白・2020)
少年マンガ風の絵柄。車が擬人化される場合、フロントグリルが口になりがち(目白・2020)

飛び出すほどの焦りは何なのか

他に見られる絵柄は「走る子ども」である。何に急いでいるのか分からないが、一生懸命走っている子どもが描かれている。高尾の子どもの走る姿はほのぼのしているが、自由が丘や四谷の子どもは帽子を飛ばして、汗を流して、何をそんなに焦っているのか。

幼稚園入り口に設置された看板。幼児がトコトコ走ってくるイメージ(高尾・2021)
幼稚園入り口に設置された看板。幼児がトコトコ走ってくるイメージ(高尾・2021)
帽子を飛ばして何をそんなに急ぐのか(自由が丘・2021)
帽子を飛ばして何をそんなに急ぐのか(自由が丘・2021)
こちらも汗を流しながら急ぐ少年。よほどの急用があると思われる(四谷・2021)
こちらも汗を流しながら急ぐ少年。よほどの急用があると思われる(四谷・2021)

特に意味はないのかも知れない。子どもは得てして意味のない行動を起こしがちである。大人のドライバーは、そうした予測も込めて注意を払わなければならないことを、飛び出し看板により思い知らされるわけだ。

近頃ではボール遊びを禁じる公園も少なくなく、外で遊ぶ子どもの数も減りつつある。しかしドライバーはいつ何時でも飛び出しには気を付けなければならない。ドライバー達の自覚を促すためにも、飛び出し看板は今後も残り続けていって欲しいものだと思う。

絵・取材・文=オギリマサホ

かつて小学生だった人たちが、必ず一度は目を通す本。それが「偉人の伝記」ではないだろうか。その伝記の常連が二宮金次郎である。大人になった二宮尊徳がどのような功績を残したかは知らなくても、「村人のためにわらじを直す」だの「読書をするために、菜種を育てて油を得る」といった少年・二宮金次郎のエピソードを覚えている人も多いだろう。その中でも一番有名なのが、「薪を背負いながら本を読む」という話だ。
基本的に下ばかり向いて歩いている。そのため、足元にあるものについては目につきやすい。店に入る時も、看板よりも先に目に入るのは、入り口に敷いてあるドアマットである。ドアマットの役割とは主に、外から入ってくる人の靴の泥を落とすことにある。汚れがつきやすいため、デザインもシンプルな暗色である方が望ましいだろう。一方でドアマットは、客を迎え入れる最初の要素であり、店の顔ともなるものだから、派手で綺麗な色柄の方が宣伝効果は高まるはずだ。こうした矛盾を乗り越えて、客に訴えかけるデザインとなったドアマットたちを街で追ってみた。