いつわりのない芸術、“銀塩写真”の意義を問う
小田原にある江之浦測候所の建築をはじめ、日本の古典芸能など舞台芸術の演出ではヨーロッパ数都市やニューヨークにも進出するなど、多彩な創作活動を見せる現代美術家・杉本博司氏。
そんな多才な杉本氏の芸術の原点と言える、銀塩写真に焦点を当てたのが本展だ。確たるコンセプトに基づき独自に表現された作品は、銀塩写真の技術としても頂点を極めるものである。しかし写真がデジタルに置き換わった今、その技法は「絶滅が危惧される」ものになりつつある。
「今、写真から何が絶滅したのか。それは写真の証拠能力に他ならない。写真は21世紀に入り急速にデジタル化した。デジタル画像はいかようにも変換可能である。西部開拓時代、アメリカ先住民は思った。『白人嘘つく、インディアン嘘つかない』。今、私は同じように思う。『デジタル嘘つく、写真嘘つかない』」(杉本博司)
「私は銀塩写真の寿命と私の寿命とが響き合っていることに幸せを感じている」と語る杉本氏。銀塩写真が、いつわりのない芸術としての写真の意義を改めて問いかけてくる。
初期から近作まで全13シリーズを3章で構成
本展では、3つの章、全13シリーズによってゆるやかに時系列を追いながら、杉本博司氏の作品世界の展開をたどる。杉本氏への評価を確立することとなった初期の3シリーズに始まり、3章「絶滅写真」では、終焉を迎えつつある銀塩写真というメディアの始原から近作までを紹介。杉本氏が予見する“絶滅”をめぐるヴィジョンの行方を探る構成になっている。
中でも注目なのが、《ポコット族》などいくつかの新作を加えて再構成されたシリーズ〈ジオラマ〉だ。シリーズが始まった1975年からひそかに構想され、半世紀を超えて実現に至った人類史をめぐる深淵なストーリーが、初めて提示される。
半世紀にわたって写真というメディアによる表現の可能性を拡張・深化させてきた杉本氏。“絶滅”という主題を通して、杉本芸術の真髄に触れてみたい。
開催概要
「杉本博司 絶滅写真」
開催期間:2026年6月16日(火)~9月13日(日)
開催時間:10:00~17:00(入館は~16:30)※金・土は10:00~20:00(入館は~19:30)
休館日:月(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(東京都千代田区北の丸公園3-1)
アクセス:地下鉄東西線竹橋駅から徒歩3分
入場料: 一般2300円、大学生1200円、高校生700円 ※当日に限り所蔵作品展「MOMAT コレクション」も観覧可。
【問い合わせ先】
ハローダイヤル☏050-5541-8600
公式HP:https://art.nikkei.com/sugimoto/
取材・文=前田真紀 画像提供=東京国立近代美術館





