世界の造形物に触発された創作の軌跡をたどる

利根山光人 メキシコにて。
利根山光人 メキシコにて。

茨城県に生まれ、長く世田谷区にアトリエを構えた画家・利根山光人(1921-1994)。アトリエに遺された膨大な版画やスケッチ、コラージュなどの作品群を約5年間にわたり調査するなかで浮かび上がってきたのは、メキシコのみならずインドや中国、中東や欧米、そして日本各地の祭り、とりわけ古墳や遺跡に関心を寄せ、世界中に創作のイメージを求める姿だった。

本展では、油彩約50点、版画約60点、スケッチ約100点に加え、マヤ、アステカ遺跡の拓本やメキシコの蒐集品、記録写真など、総数250点を超える作品や資料が展示される。あふれるバイタリティと、自由で旺盛な好奇心で力強く歩みつづけた、利根山の創作の軌跡をたどる。

広報担当の杉村さんは「1995年の『利根山光人展』から30年。これまでメキシコとの関わりで紹介されることが多かった利根山光人ですが、今回は『利根山光人の旅』をテーマに、メキシコのみならず、日本を含む世界各地の文化に触発された作品をご紹介します。

洞窟壁画や石窟寺院、装飾古墳、鹿踊りや鬼剣舞など、各地の文化に心を動かされた利根山の感動が、力強い造形として描き出されています。旅を重ね、出会いを重ねて生まれた作品の数々を、ぜひお楽しみください」と見どころを語る。

利根山光人《雨乞い》1987年 油彩・キャンパス 『世田谷美術館』蔵。
利根山光人《雨乞い》1987年 油彩・キャンパス 『世田谷美術館』蔵。

初期作品から世界各地の旅によって生まれた作品までずらり

利根山光人《律動》1976年 油彩・キャンパス 『利根山光人記念美術館』蔵。
利根山光人《律動》1976年 油彩・キャンパス 『利根山光人記念美術館』蔵。

30年ぶりの大規模回顧展となる本展では、遺族の協力のもと、アトリエに遺された取材旅行時のスケッチブックや写真など、1960年代から80年代にかけての風景や風習をとらえた貴重な資料が初公開となるのも見どころのひとつ。

また、注目は1963年、特別の許可を得て利根山が採集したマヤ、アステカ遺跡の貴重な拓本。『東京国立近代美術館』で拓本展が開催され大きな反響を呼んだもので、現在『世田谷美術館』のコレクションとなっているこれらの拓本が特集展示される。あわせて、利根山が蒐集したメキシコ先住民族の仮面やメキシコ民芸なども展示される。時空を超えた異国のイマジネーションあふれる空間を体験したい。

利根山光人《祝祭》1978年 油彩・キャンパス 聖徳大学・聖徳大学短期大学部蔵。
利根山光人《祝祭》1978年 油彩・キャンパス 聖徳大学・聖徳大学短期大学部蔵。
利根山光人《円文と人物》 チブサン古墳、熊本県山鹿市 1973年 コンテ・水彩・パステル・紙 一般社団法人アルテトネヤマ蔵。
利根山光人《円文と人物》 チブサン古墳、熊本県山鹿市 1973年 コンテ・水彩・パステル・紙 一般社団法人アルテトネヤマ蔵。
利根山光人《王侯立像(拓本)》メキシコ・チアバス州 ボナンパク遺跡 マヤ古典期A.D.780頃 1963年採拓 『世田谷美術館』蔵。
利根山光人《王侯立像(拓本)》メキシコ・チアバス州 ボナンパク遺跡 マヤ古典期A.D.780頃 1963年採拓 『世田谷美術館』蔵。

関連企画も開催

工房見学「絶筆石版画の公開制作―利根山光人の版画技法をひも解く」

10月5日(日)13時~14時30分・15時~16時30分、利根山のリトグラフ制作に携わった尾﨑正志氏の版画工房を訪れ、絶筆石版画を特別に摺(す)る公開制作の見学ができる。現地集合現地解散。対象は18歳以上、定員各回20名、参加費無料。申し込みは公式HPより、9月23日(火・祝)24時まで受け付け。

ナイトイベント「トネヤマ・デ・ノーチェ」

10月11日(土)17時30分~20時、ゲストに利根山光人長女の立花雅子氏を招き、トークイベントが『世田谷美術館』講堂1階展示室ほかで開催。対象は18歳以上、定員30名、参加費無料。申し込みは公式HPより、9月30日(火)24時まで受け付け。

レクチャー「人間讃歌の画家 利根山光人―大いなる生を描く―」(手話通訳付き)

10月19日(日)11時~12時30分、講師に新潟市美術館特任館長・滝沢恭司氏を招き、レクチャーが『世田谷美術館』講堂で開催。定員140名、参加費無料。当日館内にて整理券が配布される。

開催概要

「自然と魂 利根山光人の旅 異文化にみた畏敬と創造」

開催期間:2025年9月13日(土)~11月9日(日)
開催時間:10:00~18:00(入館は~17:30)
休館日:月(9月15日〈月・祝〉、10月13日〈月・祝〉、11月3日〈月・祝〉をのぞく)、9月16日(火)、10月14日(火)、11月4日(火)
会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
アクセス:東急電鉄田園都市線用賀駅から徒歩17分または東急バス「美術館」行き終点下車3分。
入場料:一般1400円、大学生・専門学校生・高校生800円、65歳以上1200円、中学生・小学生500円。
※身体障害者手帳などの手帳をお持ちの方500円、ただし小・中・高・大・専門学校生の障害者の方とその付添いの方(1名まで)無料。
※未就学児無料。

【問い合わせ先】
世田谷美術館☏03-3415-6011
公式HP https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00226

 

取材・文=前田真紀 画像提供=世田谷美術館